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走る、走る、ひたすらに走る。

いつから走っているのか全く判らない。

何故走っているのかも。

でも止まれない。

肩に手がかかる。

そうだ!逃げていたんだ!

捕まった!?


「ユウキ?大丈夫か?」

気付くとスタンの顔が有った。

汗だくに成っている顔を拭うと身体を起こす。

何かを言いたげなその眼を避けるように周りを見渡すと二人も此方を見つめている。


「あっと……すいません。

うなされていた…感じですよね?」

「あぁ…途中で起こそうかとも思ったんだが……そろそろ交替の時間だ。

これを少し飲むと良い。」

「ありがとうございます。

頂きます。」


木で出来たそのコップにはハーブティーだろうか?良い香りが鼻を抜けていく。

少し落ち着いた気がした。


「やれやれ、ハウスブルグ中の兎を呼び寄せるつもりかと思ったわい。」

ダヴィッドがゴロリと横に成る。

スタンはポップスと眼を交わすと任せたとだけ言い横に成った。



「あの…さ…ポップス。」

沈黙に耐えきれず話し掛けると口に指を立てる。

「寝ている時は基本喋るの禁止だよ。

スタンがスッゴい怒るからね。」

まぁそれはそうか。

諦めて火を見つめる。

改めて自分がお荷物でしか無い事を自覚すると共に不安が押し寄せてくる。

自分はどうして喚ばれたのだろう。

そもそも生きていけるのだろうか?

何をすれば良いんだろう…。

何が出来るのだろう……。

スタン達に着いていって…これからどうなるのだろう……涙が溢れてくる。

何もわからない。

聞くことも出来ない。

いっそ打ち明けてしまおうか……。


そんな事を考えていると、ポンポンと肩を叩かれた。

「なんか辛そうだけどきっと大丈夫だよ。

記憶だって取り戻せる。

おいらには何も出来ないけどスタンって凄く賢くて頼りに成るんだよ!

元気出して。」

そう言ってタオルハンカチを出してくれる。

今のところ何一つ良いことが無い、この先もどうなるか判らない不安しか無い中で彼の存在は偉大過ぎる。

女の子なら間違いなく惚れてるね。

見た目は年下だけど着いて行かせてください!って感じ。

何だか更に涙が溢れそうだ。

柔らかい肌触りがとても気持ちいい。

フワリとする嗅ぎ慣れた洗剤の香りが汗臭さに慣れそうに成っていた鼻にとても新鮮に……


新鮮に………


嗅ぎ慣れた?


慌てて明かりにかざして見る………。


これ……僕んじゃね?


スーっと冷静に成っていくのが自分で判る。

「ポップス?」

「シィー!」

「いや、シィーじゃなくて。

えっと…このハンカチ…どした?」

「ん?良いだろ。

凄く柔らかくて気持ちいいんだよ!

貸してあげるだけだからね?」

「いや、これ僕のなんだけど?」

「えっ?そうなの?でもおいらの小袋に入ってたよ?」

「はい?いやいやいや、だってホラ、ここに僕の名前が入ってるだろ?」

「どれどれ?あーゴメン。僕字が殆んど読めないんだ。でも見たこと無いねぇ」


………先程から鳴り始めていた鳥の声が一瞬止んで飛び立つ音がしたような気がした……。


「でも良かった!きっと何処かで落としたんだね!

拾ったのが僕で本当に良かったよ!」


朗らかに言い切る………。

どう見ても嘘をついてるようには見えないけど……。

まぁポケットに入っていたはずだし…有り得なくもないのか?

あ、最初にダッシュした時に………。

いや、そこで返せよ。

他に居ねーだろ!?


「ポップス…あのさ」

「あ、マズイ!!」


いきなりポップスが踵を返してスタン達の所に行って蹴飛ばした!?


「いやいやマズイじゃねーよマズイじゃ!!」

慌てて立ち上がる。

するとポップスが猛然とタックルをかましてくる!!

舐めるなよ?

これでもサッカー部では期待の新人と呼ばれた男!

咄嗟に避けようと……速いっ!!

チキショウ!!!

体格差も有ってマウントこそ取られなかったものの尻もちをついてしまう!!!


「動くな!!!」

スタンの声が響く!

見ると矢をつがえたスタンが明らかにこちらに向かって矢を引き絞っている!?


クソ!!皆で嵌めてやがったのか!!!

チキショー!悔しさを堪えながら両手を上げようとすると……


ヒュン!という音がして上げようとした指の先を何かが飛んでいく!


グゲェッ!


蛙の潰れた様な音がした。

ガサガサッと音がしたかと思うとダヴィッドかかけてくる。


これって…襲われてる?

腰が砕けて力が入らない。


「チッ!」

ダヴィッドの舌打ちが聴こえた気がした。ポップスはいつの間にかに居ない。

ヒュン!ヒュン!

2本続けて射られる音。

グゲェッ!グゲェッ!続けざまに蛙の鳴き声。


ヒュンヒュンヒュンヒュン


何かを振り回す音がしたかと思ったら今度はスタンの後ろの方からグチャッと何かが潰れた音がした。

「ヤベエ!退け!!」

しゃがれた耳障りな声がするとガサガサいう音がして静かに成った………。


まだ膝がガクガクしてる……。

振り返るとダヴィッドが両手に斧を握り締めて周りを窺ってる。


「行ったか?」

「多分大丈夫。流石だねぇ。」


スタンの呼び掛けに少し気が抜けるような暢気な声が返る。


空はもうとうに白ばみ始めていた。


「おい立てるか?

怪我は無いよな?」

ダヴィッドが起こしてくれる。

何もしていないのに心臓の音がヤバい。

手も足もガクガクする。


ようやく落ち着いてきて周りを見渡すとポップスがしゃがみこんでその側でスタンが難しい顔をしている。

「どうじゃ?」

「マズイな。何故こんなところにゴブリンが居る?

何か聞いてないか?」

「……儂は聞いとらん…だが良くない噂は流れて来ては居た。」

「戦争?」

「うむ…じゃがこいつらがここに居るというのは…」

「逃したのはまずかったな…

ポップス出来るだけ早くここを離れたい。」

「了解だよ。こいつらは?」

「放って置こう。時間が惜しい。」


いそいそと夜営の後を片付けていく。

どうやら魔石を回収したりはしないようだ。

ゴブリン?は喉のど真ん中に矢が一本ずつ立っていた。

素人の僕でも判る。

あの薄暗い中こんなことが出来るのは、明らかに神業としか言いようがない。

その弓を向けられて居たことが有るのは相当ゾッとすることだと感じた。


「ポップス裏道に切り換える。先導頼む。ダヴィッド…」

「お守りじゃな、わかっちょる。ほれ行くぞ?」

「目的地は変えなくて良いんだよね?」

「あぁ取り敢えず合流が先だ。」


聞きたい事が山ほど有ったのにとても聞ける雰囲気ではない。

あのポップスがほぼ無駄口を叩かない時点で緊急事態だと判る。

道の無い道であるにも拘わらず昨日迄とあまり変わらないペースで森の中に着いていった。

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