序章
トンネルを抜けると土埃だった…。
全く情緒もクソもない。
舞い上がる土埃が収まるにつれて周りが見えてくる。
荒野にいつの間にか僕はいた。
いや、荒野と言うにはおこがましい。
半径50m程の円の真ん中に僕は居た。
何が起きたのか理解が追い付かない。
部活帰りに友達と別れて家に帰る途中…だったはず。
と言うかトンネルは何処に行った?
360度何もなく。
円の外側には森?
シンと無気味な静寂の後に急に虫の声が上がり始める。
頭に浮かぶ1つの言葉。
異世界召喚?
結構本は好きだった。
勉強は嫌いであるけれど。
小説家になろうではブックマーク20以上付けてるし。
更新通知はほぼ毎日読んでる。
あ、魔王様観察日記はマジでお薦め。
深刻な不満が有るわけでは無いけれど、ちょっとした憧れも有ったのは確か。
取り敢えず状況を把握する。
ステータスオープン!
…………
視界の何処にも異常無し。
あーそういうパターンね。
手に力を入れてみる。
何か集まってくるような………
違うみたいね。
丹田かな?
下腹に力を込めて………
えーと…ファイア!!
手を前にかざして心の中で唱えてみる。
無詠唱は初めが肝心だしね!
燃える火をイメージ。
あっついよ~。あっついよ~。
俺に惚れると大火傷するぜ!なんちゃって………
自分を省みて大火傷しそうだ。
あー成る程。
そういう感じね。
思い切りジャンプ…しようとして跳びすぎたら怖いから。
クラウチングスタートから…ダッシュ!
うーん少し走ってみるがそんなに速い気はしないね。
踏み込んだ地面が大袈裟に抉れてたりも…してない。
地面を殴ってみる。
うん痛いね。
全く地面もそのまま。
凹んでもいない。
あーあとは…神様からこれから何かギフト…でも?
「なぁ……何してんの?」
神様!?
と振り返るとワルガキの小学生みたいな奴が後ろに立っていた。
いつの間に!?
「おい!離れろポップス!」
声の方を見ると髭を生やした男が弓でこちらを狙っている。
両手を即座に上げて降参アピール。
いやいや無理だろ。
って持ち物の確認すらしてねえよ。
何異世界とかって舞い上がってんの?
死んだら…あ、死に戻り?…いやいやいやいや試せねぇよそれは!!
どうすんの復活とか出来るとは決まってないどころか大体ねぇよ。
その周りをさっきのガキがぐるぐる回ってる。
「多分大丈夫じゃないかなぁ?
なぁおいらポップス。宜しくな。」
手を出してくる。
弓で狙ってる奴をチラリと見る。
全く油断をしてくれている様子は無さそうだが反応を観ているようだ。
ガキが…ん?ってな感じでニコッと笑い首を傾げた。
ゆっくりと右手を下ろして手を握る。
「ユウキです。えっと…宜しくお願いします。」
そして男の方を見て、ね?と言わんばかりに笑った。
「取り敢えずこっちに来い。
そこは目立ちすぎる。」
弓は下ろしているが矢はつがえたままだ。
「なぁもう手を離してくれないかな?」
その一言でずっと手を握っていたことに気付く。
「んで、何してたの?
ってか変な格好だねぇ。
何処から来たの?
食べ物だったら何が好き?
杏の実食べる?
あれ?………何で泣いてるの?」
気が付いたら涙が出てきてた…なんだろなんだか凄いホッとした。
我ながら情けないとは思うけど…人に命を狙われる経験なんて皆無だし…なんだかその後で親しげに話し掛けられて気が緩んでしまったのだろう。
なかなか止まらなかった。
「ゴメン…なんかゴメン…なんかわからないけど…」
ため息をついて男が弓から矢を外した。
「取り敢えず移動しよう。少し騒がしく成ってきた。」
しばらく道なき道を歩いて行くと急に開けて道のような所に出た。
そこには身長はポップより更に小さいのにずんぐりむっくりした…お爺さん!?がナイフで何かを削りながら座っていた。
ドワーフだ!絶対ドワーフ!!いや他に無いだろ!!
「なんだ?随分妙なものを拾ってきたな……飼うのか?大丈夫なのか?」
固まる……。
顎髭を撫でながら男は応える。
「その先にある空き地に居た。近くの村か部族の迷い子だろ?ポップが大丈夫だと感じている。まぁこれ以上面倒みなきゃいけない対象が増えるのはゴメンだね。」
「えっ?何々?おいら達なんか飼ってたっけ?
全然気付かなかったんだけど!ドコドコ!?」
フンッ!と鼻を鳴らしてドワーフは荷物を持ち上げた。
どうやら荷物番だったようだ。
「さて改めて。私はスタンとでも呼んでくれ。
君はどうしてこんなところに居たのかな?行き先が同じ方向なら送ってあげるけど?」
どうしよう……。
悪い人では無さそうだけど……って言うか放り出されても困るんだけど………。
「すいません。実は…記憶が…無いんです。
気付いたら…彼処に立っていて………。」
スタンはジッと僕の目を覗き込む。
「フム…どう思う?」
「まぁ魔法…だろうな?むしろ他の原因が有り得るのなら教えて欲しいわい。ペテン師なら何か判るかも知れんな。」
「ねぇねぇそろそろ行かない?飽きてきちゃった。」
少し考えると彼は僕に言った。
「ついてくるかい?」
選択肢等有る筈がなかった。