コルダの訪問
「それで、本日はどういったご用件で?」
ボタクリエも、平静を装う。
いや、努力はしているが、完全な演技ができている気はしない。
コルダ達が、どこまで大きな計画の中で動いているのか、自分がその中でどのような役回りとされているのか、あまりにも見えない。
月も見えぬ雨夜の大海原で、ゆっくりと揺られているような気分であった。
「ああ、残りの石の用意ができましたので、さっそくお持ちしました。」
「え?」
「こちらです。本当は、目録を付けると良いのでしょうけれど、そちらでも詳細な鑑定を行うでしょうから、数と魔力量だけ確認するということでよろしいですか?」
そう言って、コルダは鞄から、大きなリンゴほどの大きさの布袋を取り出す。
布袋の口を開くと、中には色とりどりの精霊石がぎっしりと詰まっていた。
「いや、は、は、は……。」
まさか、本当に百粒の支払いがなされるとは。
思わず、左手にはめた幻術破りの力を持つ指輪の魔道具を、何度もこすってしまっていた。
それに、完膚なきまでに破壊され、崩れた倉庫と潰れた魔道具の姿が、まぶたの裏に浮かぶ。
いや、知らぬ、私は何も知らぬ。
騙そうというのではない。
聞かれなかったから、答えていないだけだ。
ウラカータを呼びつける。
精霊石の小山を目にしたウラカータが、背筋をこわばらせたのを、咳払いをしてごまかす。
一緒になって石を確認していくが、間違いなく、上等な石ばかりである。
「コルダ様のお国では、精霊石はこれ程に豊富に採れるものなのでしょうか?」
「たくさん採れるというわけではないのですが…… 利用できずにいる石が多くある、というところでしょうか。付与術が使える環境にないと思っていただければ。」
詳細を語る気のない雰囲気である。
「そう……ですか。先日のお話では、この後もお取引を希望だったかと?」
「そうですね。特に、死蔵されている魔道具で優れたものがあれば、ぜひ買い取らせていただきたいと考えております。」
「貴族や富裕商を集めての、魔道具の商談会を近々開催することにしております。商談会への招待に合わせて、わたりを付けておきましょう。」
ふと、ボタクリエの脳裏に閃く考えがあった。
これも、同じ計画の中にあるとしたら。
借財で身動きの取れぬ大貴族の、今では役に立たないものの、しがらみで現金化などできぬ魔道具。
似ていないか?
あの、倉庫の品々と。
探している、品があるのか?
そして、その品には、やはり帝国の闇に関わる何かが……?
ヒヤリと背筋を氷が伝うような感覚。
だが、守護霊ともいうべきボタクリエの商人としての勘は言う。
ここで、立ち止まるべきではないと。
旬の果物を使った菓子にスプーンを伸ばしていたコルダの声に、意識を取り戻す。
「さすが、ボタクリエ様ですね。」
思わずビクッと手を震わせる。
何のことだ…… 読まれている……?
「このお菓子、すばらしく繊細な味わいです! 帝都の中でも、選りすぐりの店のものなのでしょうね!」
子どものようにはしゃいだ声を上げているコルダ。
いや、実際、子供と言っていい年齢なのだろう。
その瞳には、邪気は感じられない。
しかし……
私が受け取った百十粒の精霊石。
私は、何を売り渡そうとしているのか。
知らぬことが恐ろしい。
だが、知ることは、なお恐ろしい……。
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