倉庫跡にて
「な、コーダよ。」
「コーダって誰ですか。」
「コルダよ。」
「はい、なんですか、アラモードさん。」
「これで、良かったのか。っていうか見られたな。」
「タイミングが違っただけで、結果的には同じことですよ。」
「まあ、な。あいつらも、そっと目を閉じて帰っていったもんな。」
「そういうことです。むしろ、彼らの態度を確かめることができて、話が早くなりましたよ。」
「そうか? そうなのか? 何か、ものすごく関わってはいけないことに関わってしまったような顔をしていた気がするぞ……。」
コルダの、それ以上の言葉はなかった。
二人は、そのまま口を閉ざし、夜明けの光の中に姿を消していくのだった。
午後。
ボタクリエとウラカータは、魔道具の工房主や冒険者ギルドの素材部門長達との臨時会合から戻ってきた。
倉庫街で見たものはどうあれ、手元にあるのは幻ではなく、本物の精霊石であり、すでに商談会に向けての設計や企画は動き出してしまっている。
何もかもを無かったことにはできない。
倉庫街で見たものは、幻であってほしかったが。
ボタクリエは、遅めの昼食を取りながらも、会合の結果に基づいて各部門の責任者に次々と指示を飛ばしている。
会場の手配、資金の融通、招待者のリストアップ、吟遊詩人や演奏者への連絡。
貴族や富裕層を集めての数百人規模の催しである。
主催側の従事者だけでも、百人単位となるだろう。
老舗のボタクリエ商会にとっても、決して小さくはない。
一通りの指示を出し終え、ようやく落ち着いて食後のお茶を考えていた、その時。
秘書役の職員が近づいてくる。
「ボタクリエ様、お客様が見えておりますが……」
「予定はあったか?」
「いえ、面会の約束はないとのことでした。多忙であれば会えなくとも構わないとおっしゃっていましたが……」
「なんだ。歯切れの悪い。誰が来ているんだ。」
「コルダ様でございます。お会いになられますか。」
「……会おう。通してくれ。」
前回と同じ、応接室。
「ボタクリエ様、お忙しいところにお邪魔してしまったようですみません。」
朗らかな表情で、コルダが挨拶してくる。
コルダとアラモード、二人ともにまったく平静に見える。
倉庫の現状を、すでに知っているのか……?
あるいは、知っていても平静なのか。
とすると、襲撃も織り込み済み、すでに、目的のものを入手済みということか……?
いや、よそう。
カマをかければ何か情報を得られるかも知れないが、この場合、知ることこそ弱さに、そして危険につながる。
そう、長年の経験が、警鐘を鳴らしてくる。
「ちょうど仕事に一区切りがついたところでして、お茶を飲もうと思っていたところですよ。よろしければご一緒にいかがですか? 甘いものが苦手でなければ、ちょうど初物の菓子も届いたところです。」
「それはありがたいお申し出ですね。差し支えなければ、ぜひ。」
お茶の支度を申し付ける。
「それで、本日はどういったご用件で?」




