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倉庫街にて

さらに翌朝。

まだ夜が明けて間もない時刻というのに、ボタクリエはウラカータとともに速度の出る軽装馬車の上にあった。


多忙なボタクリエであったが、どうしても倉庫の魔道具のことが気になったのである。

鍵はすでに引き渡し済みであり、中に入ることはできないが、せめて雰囲気だけでも見ておきたい。

ボタクリエの強い要望により、仕方なく、このような時間帯の行動となっていた。


そして、彼らが見たものは。


「なっ……」


崩れ落ち、潰れた倉庫の残骸であった。


「馬鹿な! 」


倉庫街の、他の建物には被害はない。

地震や火災ではない。

壁も柱も、突然巨大な重しを載せられたかのようにまっすぐに潰れ、屋根部分だけが、平たく残っていた。


しかし、倉庫自体も警備や防護の術式が施された魔道具。

収容していた品物はそこまで価値の高くないものだったとはいえ、単なる家屋とは比較とならない耐久性があったはず。


そして、中の魔道具たちは。

崩れた建物の残骸の隙間から、つぶれた家具や調度が見え隠れしている。


「どういうことだ……!? 倉庫もろとも、魔道具も破壊されたということか!」


「これだけの数の魔道具を、一気に破壊するとは…… それに、周囲にはまったく被害が及んでおりません。」


「超高位の破壊的な精霊術と、その余波を封じ込める超高位の結界の組み合わせか? そのようなことが、成しうるのか?」


「単純な威力によってあれだけの魔道具を破壊できるとしたら、神代の禁術の類でしょう。それに、魔道具の破壊による魔力の暴走も、通常の結界で封じ込めることはとても考えられません。」


「とすると。」


「魔道具自体を破壊すると噂される、破精の術ならば可能なのかもしれません。そして、もしこれが、破精の術によるものだとすれば、それを成したのは、帝室直轄の黒の破精部隊(ニングルム)でしょう。」


「つまり、魔道具に秘められた何かが、帝室にとって、決して在ってはならぬものであったと。」


「であるとすれば……」


「帝室は、何らかの禁忌を抱えていると……」


ボタクリエとウラカータは、厳しい表情で顔を突き合わせている。


ボタクリエは老舗の魔道具商であり、多少の政治力も持っている。

が、それはせいぜい過去からの義理や貴族の醜聞ネタ、寡占商品の流通の支配といったものであって、帝室や帝国の中枢に干渉するようなものではない。


「この取引、どうなる。」


「契約上は、我々の債務はすでに完了しております。鍵と認証術式の引き渡しは済んでおり、同時に、管理の責任も相手側に移っております。事故や災害があったとしても、我々が補償する義務はございませんが……」


「うむ。理屈で言えば、そういうことであろうな。とはいえ、ボタクリエ商会では……」


「はい。普段の取引であれば、事故で引き渡しができなかったような場合にも、ある程度の代替や支援を行っております。」


信用を生む商売というのは、そういうものである。

だが、このような事態は、ボタクリエたちの想定を超えていた。


仮に、もし仮に、巨大な陰謀や闘争が背後で行われているとしたら、我々の挙動が、そこにどのような影響を及ぼすのか。


「むぅぅ。判断するにも、あまりにも材料がない。商人としての仁義にもとるかもしれぬが、いったん、これは見なかったとしてコルダ殿の動きを待つしかあるまい。」


「そうと決まれば、一刻も早く立ち去るのがよろしいかと。さ、参りましょう。」


ウラカータは、すばやく馬車を出発させる。


物陰から、二人の様子をうかがう視線があったことに気づかずに。




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