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呼びかけと応答

馬車は、昼前にはコルダ達を宿へと送り届けていた。


ウラカータも、商会へ戻っている。

朝から倉庫へ出向いたものの、倉庫の品物をざっと眺めただけで戻ってきたこと、何か二人の会話から拾える情報が無いか解析してみることをボタクリエに報告したのち、ウラカータは自室に閉じこもっている。


召使の用意した簡単な食事をとりながら、ウインドトーカーの記録をなぞっている。

ウラカータの特技の一つは、盗聴とその成果の分析である。


例えば、ウインドトーカーは、記録してきた音声を速度を自在に変えて再現できるが、ウラカータは、通常の七倍もの速さで再現した音声を、聞き取ることができるのだ。


二人の会話は、たわいのないものだ。

その多くは、コルダが一方的にアラモードへ目にした魔道具の感想を述べている。


だが、ウラカータが着目したのは、発言自体ではなく、その「間」の方だった。

確かに、コルダの発言は、不規則で、目にしたものについて片端から内容のない感想を述べているだけに聞こえる。


しかし、足音と発言のリズムを照らし合わせると、発言する際には足を止めていることが多いにもかかわらず、しばらく足を止めていながら、間の長い場面が何か所かある。


今回張り付けていたウインドトーカーは、主に音声を記録しているが、念話の類も合わせて捕捉している。

ちょっとした術者であれば、念話も使えるし、魔道具にも念話の機能を持つものはいくらでもあるからだ。


念話は、その内容を暗号化することはできても、念話の存在そのものを秘匿したり、傍受を防ぐことは難しい。また、暗号化したとしても、時間と術式を重ねれば、解けない暗号はないとされている。


ウラカータからすれば、あの二人が念話で重要なやり取りをすることは考えにくく、仮に傍受できたとしても、聞かれていることを前提としたものだと思っていた。

なので、沈黙の時間帯に、多数の念話の形跡を読み取った時には、むしろ意外に感じたものだった。


食事を終えたウラカータは、本腰を入れて解析を開始する。


念話の形跡はあるものの、暗号化されているのか、内容は読み取れない。

ウインドトーカーの記録を、自らが長年かけて作り上げてきた解析用の術式にかけて展開していく。


内容はいまだ不明だが、個々の発信が分離され、やり取りの方向性と合わせて抽象的な映像として再現される。

ひどく、奇妙な構成となった。


「何ですか、これは……? 」


記録の展開と再現が正常になされたとすると、念話は、コルダからと思われる発信が最初にあり、その後、応答と思われる発信が、倉庫のいろいろな場所から同時多発的に、複数発生している。


再度、コルダによる発信があり、その直後に、さらに多数の発信が倉庫全体から発生する。


前後には、コルダとアラモードの通常の会話があり、テンポとしても会話との連続性は薄いようだ。


「呼びかけと……応答……? 特定の魔道具を探すための、探知の術のようなものでしょうか……?

にしても、応答の発信が同時に多すぎますね。これでは、私であっても聞き分けることも難しいでしょうし、応答の発信元がどの魔道具を特定するのも、骨が折れるでしょうな…… 」


何度か聞きなおすものの、やはり状況を想定しきれない。

ウラカータは、首をかしげながら部屋を出て、ボタクリエの執務室のドアをノックする。


「ボタクリエ様、お茶はいかがでしょうか。」


「うむ、頼む。」


一連の状況を、お茶を飲みながら語りあうが、やはり二人とも腹に落ちるような想定は浮かばなかった。



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