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ウラカータの裏の仕事

コルダは、アラモードに向かってにぎやかにしゃべりながら、倉庫の奥へ歩いていく。

頭の後ろに手をやり、足をぴょこぴょこと投げ出すように歩く姿は、子供っぽい仕草である。


だが、その目は絶え間なく前後左右に鋭く光を放ち、耳を澄ませている気配もある。


二人を見送るウラカータは、確かにボタクリエ商会の手代の一人であり、魔道具や精霊石の取引も扱っている。

が、同時に、ボタクリエ直属の諜報部員として第一位にある。


隠密、隠蔽、探知、侵入の術に飛びぬけた才能を持ち、鑑定や魔道具にまつわる知識と技術の研鑽に絶え間ない努力を重ねている。


倉庫の入り口の戸の脇に、アラモードという男が、ごくさりげない仕草に紛れ込ませて、監視用の使い捨ての魔道具を設置していったことも、当然、見逃していない。


これは、仮に二人が単なる商人だったとしても、おかしな振る舞いとまでは言えない。


関係によっては、多少の失礼に当たることもあるが、今回の商談では、あちらの方が破格の条件を示しているのであり、それはつまり口止め料や何らかの条件を、金銭以外の部分で要求する可能性を残しているということだ。


あるいは、「我々がどの品物に興味を持っているのか、知ろうとするな」という牽制のメッセージかもしれない。


「そうは言いましても、わたくしも、子供の使いというわけではないのでして。」


ウラカータは、改めて心中で独り言をつぶやくと、風の蝙蝠(ウインドトーカー)を背後からゆらりと飛び立たせ、倉庫の天窓へと張り付かせた。


ウインドトーカーは、精霊を使役する術に似ているが、精霊のように意思を持つものではなく、純粋に機能だけの、人工的な幽体である。


用途により様々な特性を与えて使うことができ、今回は、隠密性を高めるために、ごくごく微量の魔力で発動させ、窓越しに内部の音声を拾う機能だけに絞っている。


アラモードの設置した魔道具についての、死角や感知距離も当然考慮している。


二人がどの程度の術者かはまだ未知数だが、あれだけ大量の魔道具が詰め込まれている空間では、探知系の術でウインドトーカーを認識することは、絶対に不可能だ。


ちなみに、「糸」を付ければ、そのまま現場の音声を聞き取ることもできるが、今回はこの場で介入する予定はないので、ウインドトーカーに記録しておいて、後から確認し、興味深い内容があればボタクリエ様のもとにお持ちすればよいだろう。


糸も隠蔽はできるが、万が一糸の存在に気付かれた場合、弁解が困難になる。


一時間ほど経ったところで、コルダとアラモードが倉庫から出てきた。

ウラカータは、二人のもとへ迎えに行く。


「お疲れ様でございます。」


見ると、コルダは、戸に鍵をかけている。


「もう、よろしいので? 」


「いやもう、大変な数ですね。とてもではないですが、目録と突き合わせるのはあきらめましたよ。」


「それでは、しばらく日にちをかけて、確認するということにいたしましょうか。

我々の方でも、二、三人用意いたしますので、目録に合わせたラベルなりを作って目印としていけば、効率よく突き合せられるでしょう。」


「いや、目録との照合は必要ありません。取引は昨日のお話の通り、倉庫丸ごとを買い取ります。明後日の昼までには、そちらに残りの精霊石をお渡しするということで。」


目当ての品物が確認できたのであれば、目録との突合などもはや必要ないのであろう。

こちらとしても、手間は省ける。


「かしこまりました。それでは、本日は、もう宿に戻るということでよろしいですかな?」


「はい、そうしてください。どうもありがとうございました。精霊石については、ボタクリエ商会の事務所の方にお持ちします。」


「はい。石の確認ができる者は常に複数人おりますので、お好きな時間にお越しください……」


結局、取引の内容を確認しただけで、大した事件もないままに都心に戻ることになった。


ウラカータは、そう思っていた。



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