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契約担当者ウラカータ

商談の翌朝、ボタクリエの店の手代の一人、ウラカータはコルダ達の宿を訪れていた。


倉庫の魔道具を目録と照らして確認したり、契約書にまつわるやり取りをするためである。


「おはようございます、コルダ様、アラモード様。」

中の上といった宿の食事場で、二人は食後のお茶を飲んでいた。


「おはようございます、あなたが……」

コルダは、少年らしい明るい声で応える。


「はい、わたくし、ボタクリエ商会のウラカータと申します。」


物腰は丁寧で洗練され、商人というより、執事といった方が似合うようなたたずまいの中年である。


「昨日のお取引につきましては、わたくしめが担当させていただくことになりました。

異国の礼儀には不案内ゆえ、至らぬ点もございますでしょうが、どうかお赦しいただければと存じます。」


「そんなにかしこまらなくて結構ですよ、ウラカータさん。私は修行中の身なのですから。

こちらこそ、よろしくお願いします。」


簡単な挨拶のやり取りのあと、ウラカータは幼い商人コルダと、そのお付きの者と聞いているアラモードを連れて宿を出る。

今日は、再び倉庫に向かい、目録にしたがい、魔道具の確認を行うことになっている。


昨日の時点で、店側は正式な目録を用意していなかった。

案内したその場で、しかもすべての品について取引が決まるなどとは思ってもおらず、他の倉庫の在庫を改めて紹介するか、現在販売中の商品に落ち着くことになると考えていたためだ。


今回の倉庫がボタクリエ商会で利用されるようになって二十年余り、長年にわたってバラバラと運び込まれた品物達は、売れる見込みもなかったためその関係書類も整理されておらず、商会の棚のあちこちに散逸してしまっていた。


三百二十四件に及ぶその品書きを、一晩のうちに見つけ出し、系統立てて編纂し、極薄の紙に美しい書体で清書したうえで整った装丁の本にまで仕上げた技は、このウラカータのものである。


徹夜で優れない顔色にはごく薄い化粧が施されて疲れを感じさせないなど、広く細やかな気づかいも、この執事めいた手代にとっては、意識するまでもないことであった。


「必要とあれば、本日、順に鑑定していく用意もございますが、何せ数が数ですので、少々お手間をいただく覚悟を必要かと。」


全部で三百余り。主要なものだけに絞り、数分ずつ大雑把に眺めたとしても、相当な時間を要するだろう。


「ああ、大丈夫ですよ、ウラカータさん。こちらで、品物は直接確認していきますから。」


パラパラと目録を眺めながら、少年はこともなげに口にする。


整理されずに保管されている、倉庫一杯の、それも一点ものばかりの在庫である。商店や博物館で売り物を眺めるようなわけにはいかないのだが……

ウラカータは、少々とまどっていた。


「それでは、この後はどのようなご案内を要望されますか? こちらで、ある程度おすすめの品をお示しすることもできますが。」


「まずは、私達だけで、自由に倉庫を回らせてもらってよいですか。一通り見てから、また相談するという形でいかがでしょう。」


少年らしい、探検気分なのかもしれませんね。

あまり差し出がましい真似をすると、ご気分を害されるでしょう。

ウラカータは、コルダの自由に任せることにした。


「ええ、ええ、問題ありませんとも。それでは、私どもは表の馬車の辺りで控えておりますので、何かございましたらお声かけください。」


「よっし。それでは、行きましょうか、アラモードさん。」


馬車が倉庫の前に到着する。

倉庫の鍵を手に、コルダは、黙ったまま頷くもう一人の男を連れて、意気揚々と馬車を降りて行った。


御者と並び、馬車の前で深々と礼をして送り出したウラカータは、心の内で自問している。


「ふうむ、どうやら、御曹司とお付きの者というのは真実ではありませんね……

やはり、ボタクリエ様の言うように、詐欺師の仲間なのでしょうか……?

しかし、どうにも敵意のようなものは感じられません……

単に、秘密の目的を隠しているだけなのでしょうか…… 」


ウラカータの背後で、一瞬、ゆらりと空気がひずんで揺れた。


「わが主の思いのためにも、少しだけ、その筋書きを、のぞき見させていただくといたしましょうか。」



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