詐欺師コルダ
ボタクリエは、コルダの言葉を思い返しながらつぶやいていた。
「くくく、濡れ手に粟とはこのことよのう……。」
ボタクリエの手元には、倉庫分の手付である二十粒と合わせて三十粒の精霊石が、小山を成してうっすらと光を放っている。
これだけの石があれば、工房と貴族を集めての商談会を催すことも可能だ。
工房と石を紹介し、どのような魔道具が作れるかを物語にして吟遊詩人に語らせ、競り市で製作の権利を販売するのだ。
魔道具市場全体を盛り上げることが肝要だ。素材系ギルドにも声をかけるべきであろう。
華やかな舞台で、自らのために作られる魔道具。
賞賛の声と羨望の眼差しをその身に集められるとなれば、大金が飛び交う光景が目に浮かぶようだ。
そして、倉庫分の魔道具の残価があと八十粒。
正直なところ、ボタクリエは、八十粒などという話を信じていない。
残価分の支払いなしに、あの倉庫が空になったとしても、十分に元は取れている。
あのように大型の魔道具ばかり大量に、どうやって売り物にするというのか、歴戦の商人であるボタクリエにも、まったく手立てが浮かばない。
魔道具の帝国外への持ち出しには、高額の税が発生する。
他国の強化につながるような、輸出向けの魔道具を作らせないための、帝国の政策である。
品物の価値によって税額は変わるが、その評価は主に魔力量でなされるため、市場価値がなかったとしても、税は決して安くない。
小さな装飾品や雑貨程度ならば、隠蔽して持ち出すこともできるかもしれないが、家具や調度など、隠しようもない。
山越えや海上密輸など、当然見張られているし、見つかれば重罪だ。
家具や調度なら反逆罪ということにはなるまいが、没収のうえ罰金と追放は免れまい。
結局、他国への商売などという陳腐な作り話は、騙すという気も無いような建前であろう。
強いて推理するならば、あの倉庫の中の、特定の品が、狙いか。
そして、それがどの品であるかは秘密にしておきたい、と。
おそらく、狙いの品と、偽装のための数点のみを持ち出して、後は放置するのではないか。
精霊石三十粒となれば、中級貴族の本宅と庭園丸ごとに匹敵する相当な対価だ。
倉庫に置かれた品には、それほど特殊なものは無いはずである。
とはいえ、隠された財宝への暗号が残されている魔道具。
遺産相続の証となる魔道具。
特定の場所でのみ特殊な魔法陣を発動させる魔道具。
そういった品は、高位の鑑定でも見破れない造りになっている。
いずれにせよ、その価値は特定の人間にしか無いか、価値を現実のものにするために多くの条件を満たす必要がある。
簡単に横取りできるものではあるまい。
ともあれ、あ奴がこの一件で一儲けしてみせるのなら、その物語をぜひとも聞いてみたいものではある!
のう、詐欺師コルダよ!
ボタクリエは、帳簿を付けながら、ニマニマと口元が緩むのを抑えきれなかった。
ブックマーク、評価、ありがとうございます!
筆者の性格がのんびりしているので、なかなか物語のテンポも上げられません。
ちっとも話が進まねぇなぁ、と感じるかもしれませんが、よろしければお付き合いください。




