ボタクリエの読み
本日二投稿目です。
翌日も、ボタクリエとコルダ達は顔を合わせている。
今日は、買い付けのためにボタクリエの所有する倉庫を訪問することになっており、馬車に乗って移動している。
当たり障りのない帝都の世間話をしながら、ボタクリエは計算を巡らせている。
昨日だけでも、上等な精霊石十粒の取引が行われた。
不良在庫を寄せ集めた対価としては、破格だ。
今頃、提携工房の付与術師を呼んで、魔道具の設計が始まっていることだろう。
新しい石が十粒もあれば、同時に複数の石を使うような、贅沢な注文に応じることも可能となる。
久々の大物製作に、工房も沸き立っていた。
優れた魔道具が納品されれば、そのニュースはあっという間に帝都を駆け巡る。
他の顧客達からも、注文が殺到するだろう。
ボタクリエの読みでは、コルダ達はまだ二、三十粒の石を手元に置いていると予測していた。
コルダの持つ鞄には極めて強力な隠蔽の機能があるようで、店の対魔警備術式でさえ、中の魔道具や精霊石を探知できなかった。
本人にそれとなく尋ねたところでは、どのような石が何粒とは言えないが、まだまだ石は用意できるということだった。
むろん、ボタクリエも、まだコルダ達を信用しきっているわけではない。
詐欺めいた仕掛けがあって取引を打ち切ることになったとしても、途中までの取引で利を出す、そのように動いている。
仮に最初の十粒が言わば見せ金であったとして、まだ十粒は同レベルの石を用意しているはずだ。
その十粒をどのような対価でもって回収するか。
そこが、駆け引きの勝敗を決める境界となるだろう。
そう思っていた。
倉庫で、商談めいたものが始まるまでは。
不良在庫の中でも、家具や調度品のような魔道具を見たいというコルダの要望に応じ、中心部を外れたあたりに来ている。
この倉庫に集められているのは、ある意味、宙に浮いてしまった魔道具である。
元々は立派な屋敷に設置されていた品々が、屋敷の模様替えで外されてしまったものが多い。
本当に財力があれば、高位の家具や調度を新たに特注して製作するし、財力で劣る顧客は、このレベルの家具や調度に見合う広さの部屋を構えることができない。
稀に、古い屋敷の家具や調度が壊れ、その部分の入れ替えの需要があったり、古めかしいデザインを好む趣味人が一点、二点を買いに来るという程度だった。
あとは、デザインは古くとも魔道具としての出来の良いものが多いため、付与術士や家具製作の職人達の教材や参考資料として使われていたのであった。
とはいえ、昨今では、新たな精霊石の供給も少なくなっており、新たに付与術士を目指す者も、その教材としての出番も減っているというのが、現状である。
売り物としてはもはや動かしようがなかったが、元が高価なものだけに精霊の力も強く、処分するには風穴に運ぶ必要がある。
扱いあぐねた品が溜まっていくうちに、大きな倉庫一杯に並んでしまったのであった。
コルダの希望に従い、連れてきてはみたものの、一体どうやって売り込むか、ボタクリエとしては知恵の絞りどころである。
「おお! 素晴らしいですね!! ううーん、これはいい! 」
中を一瞥するなり、コルダは非常に興奮しているように見えた。
「ボタクリエさん! 倉庫ごと、全部買い取ります!! 昨日のレベルの精霊石で、百粒でどうですか!」
「は? は!?」
ボタクリエと警護の者は、二人合わせて、絶句していた。




