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最初の取引

ボタクリエが妄想を広げている間に、コルダが手元の柔らかな素材の布の袋から数粒の精霊石を取り出していた。


ボタクリエも、魔力探知は当然習得している。

魔力量だけでも、最近では希少と言えるランクの石である。


「鑑定させていただいても?」


「もちろんです。」


単眼鏡型(モノクル)の鑑定眼の魔道具をのぞき込んでいると、中の精霊の力について、よどみなくコルダが解説していく。


「……そちらの石は、少々やんちゃな精霊ですが、人間に悪意は持っておりませんから、よく働く魔道具となるでしょう。風精の力もありますが、土精の力も捨てがたいものがあります……」


驚いた。

この鑑定眼は相当に高位なものだが、そのレベルの品で鑑定が済んでおり、しかもそれを一粒一粒、記憶しているということか。


思わず手を止め、問いかける。

「失礼ですが、付与術もお使いなのでしょうか?」


「残念ながら、まったく使えませんね。」


「そうですか…… その資質、もし付与術が使えたならば、この国の大貴族の家が、喜んで養子に迎えるでしょうよ。」


「あはは、おほめの言葉と受け取っておきます。」


一瞬、コルダは遠くを見るような眼をしていた気がしたが、気のせいであろうか?



手始めに、店内に在庫していたアクセサリー類などを持ち込み、商談を進めていく。

コルダが取り出した鑑定眼の魔道具は、簡素な品に見えるのだが、機能や価値を計るコメントは的を射ている。


これは、全くもってごまかしの利く相手ではない。

ボタクリエは、取引に対する自分のプライドが刺激されるのを感じていた。


自分ならば、初見でその品にどのような値を付けるだろうか。

どうやって、誰に、どのように物語を付けて売り込むだろうか。

若い頃、自分も駆け出しだった頃の熱情がよみがえってくるようだった。


ところが、コルダが示した取引内容は、意外や、かなりボタクリエに有利なものであった。


「……良いのですか? 確かに、そちらの品々は良い精霊石を使った、優れた魔道具かもしれませんが、こちらの国では残念ながら評価されないものです。

正直に申しまして、今おっしゃった額の半値でも、とても買い手は付かないでしょう。」


思わず、商人にあるまじき発言を口にしていた。

脇に控える支配人も、何を言い出すのかと、目を丸くしている。


「ええ、ボタクリエ様のおっしゃることも分かります。ですが、私はこの取引で多少の利益を出すことを目指しているわけではないのです。」


「と言いますと。」


「つまり、このくらいの相場で、魔道具を買い取る準備があるということです。他にも処分したい魔道具の在庫があれば、紹介してほしいのです。」


貴族同士では、どこの家にどんな魔道具があるかはよく知られている。


富裕な商人などは貴族から魔道具を譲り受けることもあるが、誰がいつどこに贈った品か、何の祝いで買った品か、しがらみの多い貴族向けの魔道具は、それを処分したというネタも同時に売り渡すことになる。


この帝都の中では、そう簡単に魔道具を現金に換えることはできないのだ。


不要となった魔道具を差し出せば借金が減るというなら、咽喉から手が出るほどの話だろう。

うちから借金を重ねている貴族の屋敷を回れば、二束三文で集められる魔道具はいくらでもあるはずだ。


それが、市場価値を持つとしたら。


「そして、それらの支払いも、精霊石で行うつもりです。

どうですか。濡れ手に粟とはこのことか、と言ってみたくありませんか?」


ボタクリエにとっては、偶然やってきたこの異国の幼い商人が、福の神のように見えていた。

あるいは、激動の時代の、幕開けを知らせる使者のように。



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