五精家会議場にて
水精家の当主ダンディナスは、五精家会議の終わった後も、その重厚な椅子に座したまま考え込んでいた。
白髪混じりの歳とはいえ鍛えられた体躯、包容力のある柔和な瞳。
若い頃は美男子振りで鳴らしたダンディナスであったが、年を経てむしろその魅力を増していると内外の女性か口にする。
調整力に長け、領地の内外を問わず人望を集めており、帝国の安定はダンディナスの背中にかかっているとも評されている。
ダンディナスは麦月の五精家会議の議長であるため、最後まで残っていることはおかしなことではない。
が、その思索を邪魔してよいものか、控えの間の臣下達は様子を伺いながらも声を掛けられずにいた。
各家からもたらされる報告内容は、大したものではない。
だが、自前の諜報で入手している情報と組合わせると、どうも何かが噛み合わない。
自家に戻り、気に入りの椅子にもたれてゆっくり考えることであろう。
ここは会議場だ。
ダンディナスは頭を振って立ち上がる。
会議はつつがなく終わった。
ダンディナスの司会のそつのなさにもよるが、火精家当主の大人しさのこともある。
まだ息子を送った葬祭の儀より一月も経っていない。喪章を着けていた。
表情に陰はみられなかったが、コーディウスのことは気にかけているように思っていた。
それで沈んでいるのなら、案外あれも人の子ということか。
いや、思い返せば、嫌みや駆け引きに事欠かない風精家、不平や要望の絶えない土精家ともに、今回は静かなものだった。
風精家は、傘下の商業ギルドがなにやら活発化しているという。
発端は見えていないが、帝都周辺での貴族向け商品に動きがあるようだ。
そちらの算段で頭が一杯なのだろう。
土精家の方は、傘下の鍛冶ギルドのことが気になっているのか。
東の商都サルサリアとの流通が途絶えて以来、稀少素材や精霊石の欠乏は酷くなる一方だった。
それが、ここに来て魔道具関連の仕事が増えているという。
どこかの有力者が、手元の資材を放出しているのか?
だとしたら、それはそれで気になる案件だ。
有力者が伝来の品を手放すほど窮しているとすれば、また権力のバランスが崩れる。
悪徳商人の類いは、権利権限を金で買い取ることに目がない。
まるで、集めた認許状でカード遊戯でもするのかと冗談を飛ばしたくなる。
全ては、帝室のおんために……
忠義の思いはあるが、付与術が精霊石に依って立つものである以上、五精家も、ジワジワと力を落としつつある。
今のこの社会の歪みが、いつか戦を招かねばよいが……
ダンディナスの眉間の皺は、一層深みを増していた。
ようやくの新章です。
風穴でうろうろしすぎました……
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