風穴の終焉
「み、皆さん、ご無事で何よりでした。」
声をかけたんですが、うめくような、黙り込むような、静かなリアクションしか返ってきません。
これはむしろ、全力で謝罪すべき状況でしょうか?
僕の背後では、風穴が…… もうすでに穴ではなくなり、ただの泥水を溜めた窪地になっていて。
中に残っていた魔道具達は…… 絶魔体の塊の中に埋め立てられています。
いや、処分に困っていた品物をまとめて封じたんですから、謝ることなんてない!
……はずです。
スミを地面に座らせて、ミステレンが、ようやく口を開きました。
「すまんな、みんな、展開についていけてなくてな。」
膝をついていたイーオットも、立ち上がって砂を払っています。
「そうですね。少し、現状を、整理しましょうか。」
まったく事情を知らないケーヴィンは、目が血走っています。
「そ、そうだ、何があったのか、説明してくれよ…… 」
アラクレイとムクチウスは、地面に座り込んだまま、うなづいています。
そこに響き渡るのは、風穴の精霊の声です。
「ここに、風穴は閉ざされた!」
えっ。
皆さんにも、聞こえているようです。
僕の手元に、皆の視線が集中しました。
つい、皆に見えるように高くかかげてしまいます。
聞け! 精霊の声を! みたいな。
「我は、奈落の聖母と呼ばれし精霊。
かつて、大いなる術師との盟約によりこの地に風穴を開いた。」
「アビスマリア……だと!?」
思わず声を上げたケーヴィンに、アラクレイが問いただします。
「知っているのか、ケーヴィン。」
「うむ、英雄の伝承の一つで、読んだことがある。伝承が事実だったというなら、そいつは『深奥の迷宮』のダンジョンコアだった精霊だ。」
「百年がかりで踏破されたという、あの!?」
「こんな形で、魔道具として使われていたとはな……」
なんと、この精霊さん、風穴の前は、ダンジョンやってたんですか。
皆のやり取りを待っていたようなタイミングで、アビスマリアが続けます。
「夢魔の一族よ!」
スミが、ごくりと喉を鳴らすのが聞こえた気がします。
「は、はい。」
生まれたての子鹿のようにふらつきながらも、どうにか立ち上がります。
「風穴に残された精霊達は、このまま永い眠りにつくであろう。
我らの約定も、これをもって終焉とみなす。」
一方的な宣告ですが、確かに、もう処理すべき魔道具もありません。
風穴もなくなってしまいましたし、イージュワルもいません。
約定とやらも、続けようがないでしょう。
「は…… はい。」
スミも、混乱しつつも、どうしようもないことは分かっているようです。
「では、さらばだ。夢魔の一族よ、新たなるさだめのもと、自らの道を歩みだすがよい。」
水晶球の、輝きが失われて沈黙が訪れました。
あっさりしたお別れですね。
さっき初めてお会いしたところですけど。
「はー、これから大変ですね。」
そう言いながら水晶球をスミに渡そうとすると、スミが首を傾げています。
受け取ろうとしませんね。
「えっ?」
「えっ?」
いや、ダンジョンコアとかいうこんな高位の精霊石、僕は要りませんけど。




