飛び出せ!
回廊の床が、もう抜け殻になりつつあります。
「クッソっ……! 加速……できないっ!」
おっと、はしたない。
思わず呪詛の言葉が出てしまいました。
地面を蹴りだしても、その瞬間に精霊の力が散っていきます。
体の中に力をとどめても、制御が利きません。
「コーダ、あなたは飛べるのでは!?」
今は手のひらの中の禍々しい水晶球となった精霊が、けしかけるように言ってきます。
「離陸ができないんです。この、抜け殻の床から距離を取らないと、術がまともに働かないんですよ!」
「急がないと、もう縦穴がふさがってしまいますよ!?」
わかってますってばー!
「仕方あるまい。」
「そうね。」
カップのサー・エリクと、風穴の精霊と。
なんですか、二人して意見が合ったかのような。
「飛ぶのだ、コーダよ。」
「え、だから、離陸できないんですってば。」
「コーダよ。上に飛ぶだけが、離陸ではない。海鳥のことを思うのだ。岸壁から飛び立つことがあるというではないか。」
えええ…… つまり……
「急がないと、縦穴が狭まっては、間に合いませんよ。」
くううぅ。
「僕はっ! 飛べるのですぅー!!」
勢いをつけて走り出し、回廊の縁から、縦穴に向かって飛び出します。
く…… 術がうまく働かなかったら、墜落しておしまいです。
「あ、上がれぇぇぇー!!」
穴の中央、壁からの距離が一番遠い地点を見計らって!
エア・ブレイク! あんど、ベクター・ドライブ!!
う、浮いた!!
「僕は、飛べるのです!!」
大事なことなので二度目を叫びつつ、地上に向かって全力で飛び立つ僕でした。
「まぶしい……」
穴を抜けてなお、勢いよく上昇してしまいました。
空中から風穴の……跡地となったクレーターを眺めています。
崩落して窪地となった場所に、さらに水が流れ込んでいます。
地下水脈が遮られて、噴き出してきたのでしょう。
「ふふ、水圧でいい感じに圧縮されそうね。」
「絶魔体に大量の水が重なれば、普通の人間が手を付けるのは中々の仕事じゃろうの。」
このベテラン勢、なんだか波長が合うんでしょうか。
湖となりつつある窪地の脇には、皆の姿があります。
目に見えない飛膜を広げて、ゆっくりと、そちらに降りていきます。
つ、疲れました。
ひざと両手を地面について、呼吸を整えます。
「み、皆さん、ご無事で何よりでした。」
「お、おう……」
「ああ……」
「え、ええ……」
「……」
ええと、静かなリアクションですね。




