脱出
足元の震動…… 機体からのものではないですね。
そして、気づいてしまいました。
「アラクレイさん、ケーヴィンに声をかけて、脱出してください。他のみなさんも、急いで!
僕も、すぐに後を追います。
とにかく、急いでください!」
足元の震動が、激しいものに変わっています。
震動、いや、崩落が始まっているのです。
「な、何が起こっているんですか!?」
イーオットも動揺を抑えられません。
ああ、もう!
「僕が今、剥奪しているのは『風穴』そのものです! 」
「な、何だってー!?」
「風穴の精霊が、自分からそうしろと言ってきたんですよ!」
スミは、完全に顔が凍りついています。
あ、完全に思考停止してますね。
「ミステレンさん、スミを連れて、早く!」
「分かった! コーダも、無茶はするなよ!
……っていうか何をまた無茶やらかしてんだよ!!」
無茶は、したくてしてる訳じゃないんですけど……
何が起こるか察したイーオットは、ムクチウスを連れて走り出しました。
あの人のことです、命を懸けてでも、回収しておきたい魔道具の一つや二つ、ここにはあるでしょうね……。
ケーヴィンとアラクレイの声が聞こえます。
「うおっ、最下層が崩れて…… アラクレイ、見ろ!
床も壁も、抜け殻になっていくぞ! 耐えられなくなって、崩れてやがんだ!」
「コーダの術が暴走したのか!? 風穴全体が、崩れて埋まるぞ! 」
抜け殻になったら、周囲の土圧にも耐えられない。
ですよねー!
最下層が崩落して、周囲から土砂や地下水が流れ込んでいる気配がします。
ここも、下層のなかでも下の方です。
すぐに、崩落の余波が及んでくるでしょう。
「コーダ、機体の崩壊が近いです。この保管庫を、先に剥奪させます。直後に脱出を。」
「は、はい。」
押し寄せてくる魔力をどうにかさばいて丸め続けている僕は、一言答えるのがやっとです。
無茶言ってるのは、このひとですよ!
さらに、どぱん、と魔力の大きな波が寄せてきました。
ぐるぐるぐるぐる、こんなときですが、婆やが毛糸の玉を作っていたのを思い出しますね……
波が、去ります。
「コーダ!」
言われる前に、飛び出しています。
保管庫の天井も壁も、色を失ってグニャリとゆがみながら、一斉に落ちてきます。
魔道兵器たちが、抜け殻たちに押し潰され、閉じ込められていく……
さらば、です。
精霊さんのもくろみがはっきりしました。
風穴の抜け殻で丸ごと機体を埋め立てる……
崩落した抜け殻や流れ込んだ土砂の重みで、圧縮された抜け殻は絶魔体に変化する……
風穴の跡地は、大量の絶魔体を練り込んだ土砂の塊になる、と。
あんた、無茶苦茶しますね!
ズズズン…… 保管庫の入り口まで押し潰されて、もう中の様子も分かりません。
さて、脱出です……が!
回廊のそこかしこが融けるように潰れかけています。
こ、これ、ホントに抜けられるんですか!?




