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崩壊の始まり

「イーオットさん! 機体の隔壁の限界が近いのでは!?」


「なんですって!? ……多少、魔力の微振動が激しくなっているみたいですけど、魔力自体はそれほど……」


サー・エリクががなり立てています。


「融合魔石の動きは、本格的な変動が始めたらあっという間じゃぞ! 

崩壊が始まったら、逃げ出す間もない!」


当然、皆には聞こえていません。

えええ、どうしましょう。


「この魔道具が、警告を発しているんです! 

今すぐに、退避した方がいいと!」


スミも、アラクレイも、キョトンとしています。


「僕も、魔道具によっては、声を聞けるんです!」


銅のカップをかかげて、力説しています。

さっきまで、お茶を飲むのに使っていた、ごく普通の銅のカップです。


ああ、いきなりでこれは、さすがに説得力がないか?


「そう、なのかい? しかし、崩壊が始まるとしたら、なおさら放っておけないが。」


やっぱり、ミステレンは、そういうこと言いますよねー。


まずい、まずい、まずい。


「コーダ、コーダ」


聞き覚えのない声が、聞こえてきます。

女の子の声ですが、どこか人間っぽくありません。

精霊でしょうか。


振り返ると、保管庫の壁の小さな鏡から、聞こえてきます。


「私を、ここから剥奪してください。私ならば、崩壊を封じることができます。」


だれ?


「時間がありません。急いでください。」


剥奪のことも崩壊のことも知っているのだから、小さな鏡といっても特別なものということでしょうか。


「ミステレンさん、この鏡の精霊も、お借りしますよ。」


ミステレンはキョトンとしていましたが、僕にはそこに注意を払っている暇はありませんでした。


さて。

鏡よ、鏡よ、鏡さん、どうか、我らにお導きを…… 剥奪!


抵抗している感触はありません。

むしろ、力を合わせて抜け出そうとしているくらい軽い手応えです。


なのに…… なんでしょう、大きい?

それに、とんでもなく深くて広がっている……


どんどんと勢いを増して力の濁流が手元に集まってきます。

僕が抜き取っているというより、どうにか抑えこんで、無理矢理丸めてまとめあげているって状態です。


こんなのは未体験ですよ。

それに、石が…… 大きい…… モットオオキクナッテイク……


僕が見たことのある一番大きな精霊石は、五センチくらいのものでした。それでも、今となってはこのようなものは国中を探しても手に入らないとお父様が言っていました。


なのに、これは……

拳くらい、そしてまだ大きくなっていくんです……!!


イーオットもミステレンも、目を丸くして僕の手元を見つめています。


「コーダ、そ、それは……?」


スミも、口を開けたままつぶやくのが精一杯です。


いや、僕にもまったく予想外なんですけど。


その時、足もとで不気味な震動が始まりました。


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