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樽よさらば

最下層に向かうと、事態を知らないケーヴィンは、普通に作業をしているところでした。


「どうだったよ。なんだか騒がしかったけど、一区切りついたのか?」


「ちょっと色々ありまして。」


ケーヴィンは、ババ様の存在を知りません。


「あ、この樽の魔道具は、別の役目に使うことになりました。」


「え、そうなのか? ほかにいい魔道具があったのか? あれ? お前、なんか服、穴開いて焦げてるぞ?」


「説明は、後です。」


キョロキョロと見回すと、お茶を飲んでいた銅製のカップが目につきました。

拾い上げて、樽のもとに走り寄ります。


「おじいさん、あなたは僕のものということになりました。

それでですね、その図体ではいろいろと不便なので、失礼ですが形を変えさせていただきますね。

ちょっと小さいですけど、こちらでよろしいですか。また別の機会にお引っ越しということで。はい。」


樽に手を当てます。


「剥奪。」


ケーヴィンが、びっくりして声を上げます。


「おいおい、何やってんだよ!? えぇ!?

 しかも、何だその石! すげぇ紋様だな。そんなの、見たことも聞いたこともねぇぞ。

これ、低位のポーションを作る魔道具だろ?」


「詳しくは、また後ほど。ケーヴィンさん、このカップに、付与してください。」


「そのカップに!? 何の魔道具にするんだよ、そんなカップで……」


「おそらく、水を満たせば薬になるんでしょうけど…… 術式にはこだわらず、そのまま精霊の意思に任せてもらえば大丈夫です。」


「はー。何がどうなってんだか。俺は知らねえぞ…… って、ホントだ、石の方から、カップの中に入ろうとしてるみてぇだ……」


できあがったカップを手に、再び魔道兵器の保管庫へ急ぎます。


「おおい、その魔道具、効力試してみないのかよ!」


ケーヴィンが叫んでいます。


「あ、ひょっとしたら、風穴から出ないといけないかもしれません。大事なものだけ、持ち出せるように用意しておいてください。」


「え? なんなんだよ、一体!?」


「お願いしますねー。」


カップの魔道具となったおじいさんが、話しかけてきます。


「コーダよ、旅の連れとなったのじゃからな、ワシのことはエリクと呼べ。」


「分かりました、サー・エリク。」


「サーは要らんが?」


「呼び捨てにするには、恐れ多いんですよ。私は、あなたからたくさんのことを学びたいと思っています。」


「ふぅん、まあよかろう。」


「早速ですが、サー・エリク。融合魔石を安全に隔離する手立てはないでしょうか。」


今欲しいのは、魔道具としての力ではなく、その知識の方です。


「絶魔体で封印するんではなかったのか。

そういえば、ワシは樽でなくなってしまって良かったのか? この形では、大量の水を一度に魔道具にすることはできんぞ。」


「もろもろの事情がありまして、いまは緊急事態なのです。このあとすぐに、融合魔石の暴走、崩壊を止めなければならない状況となっておりまして。」


「なぁっ!?」


サー・エリクでも、驚くことはあるんですね……。



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