表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/237

イジュワール

「なっ!?」


スミの口から、イジュワールの声が上がります。

さよなら、ババ様。


イジュワールとやら、お前はやりすぎた。


憑依体を剥奪の対象にするなんて考えたこともなかったけれど、僕には、不安や迷いはなかった。


抵抗している気配は、一瞬のものだった。


憑依と離脱を、数えきれないくらい、そして永い永い間、繰り返してきたのだろう。


蜘蛛の糸をちぎるような、あまりにもあっさりとした剥奪の手応えの後、細く、いつ途絶えるともしれない罵りの叫び声が、どこか遠くで聞こえているようでした。


「お前は、もう、どこにも根付いていないんだね。」


僕の手元に残ったのは、イジュワールの面影とは違って、ひどくつややかで、濁りも傷もない黒いオニキスでした。


スミは、気を失ってしまいましたが、ミステレンが脈や顔色を診ています。

抜け殻になってしまうなんてことがなさそうで、それは正直ホッとしました。


僕を抱えて黙ったままのアラクレイの肩をトントンと叩いて、おろしてもらいます。


大丈夫ですよ。

僕は、こうして立ってます。


ミステレンの治癒術で、出血と火傷は大まかに手当してもらっていますが、痛みや強ばった感触が消えるには、しばらくかかりそうです。


さて、雇い主を害してしまった僕なわけですが……


黙ったまま顔を突き合わせた面々は、そのことを責めるつもりは、無さそうです。


「まあ、なんだ、話は後にして、目の前のコイツを何とかするってことでいいか?」


ちょっと弱気な感じのアラクレイです。

皆、うなづいてのろのろと動き始めます。


そりゃそうですね、これまでどんな経緯があったか分かりませんけれど、単なる雇用主と従業員には思えません。

それぞれ、考えごとが山のようにあるのでしょう。


機体の様子を調べていたイーオットが、難しい顔をしています。


「確かに、この機体の内部で、魔力が高まっています。制御を失って、融合魔石に何かの反応が起こっているようです。

今は緩やかな上昇ですが、加速度的に反応が進む可能性も否定できません。」


ミステレンは、腕を組んで床に散らばった絶魔体の殻を眺めています。

魔道兵器の光弾を受けた殻は、どれも形が変わってしまっています。


「絶魔体は魔力を無効化するけれど、簡単に作れる分、衝撃や物理的な力には弱い。

絶魔体の隔壁を本格的に組み上げるには、強度を増すための補強材や、隙間を埋める方法を考えなきゃならないね。

まだまだ時間がかかる。とても、すぐにどうこうできるものじゃないだろう……」


「ミステレンさん、頼みがあります。下の、樽の魔道具を、僕にいただけませんか。」


ミステレンも、束縛されたまま受け身も取れずに転がったことで、埃だらけで顔にアザもできています。


「正直言って、今の状況で、私にどういう権限があるかもよく分からないけれどね。

何か考えがあるのだろう。とにかく、使えるものは、出し惜しみせずいこう。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ