樽じいさんの過去
「樽のおじいさん、聞こえますか?」
「ん…… ふぉっ!?」
精霊が、驚いたように奇妙な声をあげます。
長く生きてきても、人間に直接話しかけられるのは滅多にないことでしょう。
「僕はコーダといいます。他の人間にも秘密にしていますが、魔道具の精霊の声を聞くことができます。」
「なん…… じゃと?」
樽の精霊は混乱している!
「珍しい力ですが、そうなのです。
それで、おじいさんの力を貸していただけないかとお願いしたいのです。」
「む、そうじゃ。声が聞こえるというなら話は早い、お前たちは、ワシの薬を使って一体何をしておるのじゃ。」
「話せば長くなるのですが……」
魔道兵器の融合魔石を封印するのに絶魔体を使おうとしていること、絶魔体の材料にポーションを使おうとしていることを、例え話を使ったりして分かりやすく説明します。
「融合魔石…… 〇▲☆△のことじゃな……。
あの光は、精霊さえ破壊する恐ろしい力を持つ。
絶魔体というのは、%#▽◆△のことかの? ふうむ、あれで隔壁を造って、融合魔石の光を封じられるか……」
おっと、この樽のおじいさん、相当な物知りなようです。
「おじいさん、なぜそんなことに詳しいんですか? お薬を作る魔道具と聞いていたんですが。」
「ふん、ワシを作ったのは、人間にしてはとんでもない力を持つ転生者の術士じゃった。そやつが健康を保ち寿命を延ばすための薬湯を作るのが、元々の使命だったのじゃ。研究室で、毎日そやつの話し相手をしておったのだ、門前の小僧を馬鹿にするでないぞ……
だが、その転生者も去った。」
「亡くなったので?」
「いや、元気であったし、そやつをどうこうできるような力の持ち主は神ぐらいしかおらぬ。
おそらく、元の世界に還ったのであろう。
百年ほど経ったところで、研究室の封印も解けた。中に残されていた魔道具もバラバラに人の手に渡っていったというわけじゃ。」
「そうですか…… 寂しいですね……」
「寂しいじゃと? ワシがか? ……お前は、不思議なことを言う。
そうじゃな、ワシはその後の持ち主たちを認める気にはならんかった。薬は作っていたが、奴らはワシの言葉も聞けぬし、信用もしていなかった。」
「薬は作っていたんですね。
すると、持ち主に害をなしたというのは……」
「重い病を治す薬は、強い。どうしても害をなす部分もある。ワシはこうして捨てられたが、それでも、あの娘が生き延びてくれたことを、喜んでおるよ。」
「害というのは、副作用だったんですね。それにしても、病の診断をして魔石だけで色々な薬を作れるって、超高位の魔道具ですよ。
主たちも知らない間に、病を治していたなんて……」
メチャメチャいい精霊さんじゃないですか!
「ま、気に食わん放蕩息子に、苦汁を作って飲ませたりもしていたがな。」
自業自得もありました!




