亡霊もどき
亡霊もどき。
そうですよ、この中には魔道具しかいません。
魔力や霊的なものは風穴の壁からは出入りできませんから、あれも、いわゆる怨霊、悪霊のたぐいではないはずです。
ならば、どこかに本体の魔道具があるはず!
まだアワアワ言っているケーヴィンを放置して、久々の実戦です。
自らに、火精の力をまといます。
念じた方向に体を加速させる、僕の得意技。
名付けて、ベクター・ドライブ!
当時八歳くらいでしたか……
なお、術の名を叫ばなくても発動できるので、改名はしていません。
この術だけでは、最初の機動や方向転換時の魔力のロスが大きいので、同時に風精の力も組み合わせます。
瞬間的に大気の一部を爆発的に分散させて、足場にしたり、ブレーキに使う術です。
こちらは、エア・ブレイク(命名当時九歳)!
多少の落ち着きを感じますね。
両者を組み合わせると、空中を駆け回り、さらに加速して飛行することだってできるのです!
「おい、コーダ、いったいどうしたんだよ!」
獣のように低く構えた姿勢から、例の亡霊もどきをにらみつけます。
「イタズラする子には、お仕置きが必要ですよね。」
「な、何言ってんだ? え? 何かいるのか!?」
あ、ケーヴィンには見えていないんでしたね。
隠蔽というか、姿を見せたり隠したりする力を持っているようですね。
光精の力、暴露の術を投げかけます。
光の筋の中に、亡霊のような半身が浮かび上がります。
「うお、なんじゃありゃ!」
「話は後です。」
僕は、空中に飛び出していきます。
ドシュッ、ドシュッ。
交互に空中を蹴り飛ばすようにして離陸すると、そこからは直接加速します!
亡霊もどきめ。
許さないぞ、よくも、よくも、よくも僕をびっくりさせたな!
エア・ブレイクの副作用で生まれる霧の軌跡を残しながら、亡霊もどきに向かって飛翔!
周囲をくまなく探知、遠隔で伝わっている魔力のつながりを探します。
こういうのは、得意なんですよ!
同じ色の魔力を帯びた、魔道具の前に降り立ちます。
強い魔力ではないですね…… 本体は、ドアベル。
やはり、あれは侵入者を驚かせるための、幻影ですね。
警備装置としての、魔道具ですか。
「それにしても、趣味が悪い。泥棒除けとはいえ、あんな幻影を出していたら、幽霊屋敷とか祟られている家とか、おかしな悪評が立って、主が迷惑しますよ。」
「ナ、ナゼソレヲ……」
幻影は、消したようですね。
本体の方から、声が聞こえてきます。
「それが理由で、お払い箱になったんですか……」
「フウジコメテオイテ、ハタライテミレバ、コノシウチ。フヨジュツシトヤラ、ユルスマジ。」
「じゃあ、とりあえず出してあげますよ。」
ドアベルは、ちょっといい色合いの金属でできていました。
何か別の形でなら、役に立つこともあるでしょう。
ちょっとした実践訓練になるかと思いましたが、イーオットやミステレンが、危険な品をその辺りに放置しておくわけないですもんね。
また一つ、バケツの中の石が増えたのでした。




