ケーヴィンの危機
「ケーヴィンさん、危ない!」
ケーヴィンさんが、風穴の中を落ちてきます。
落としたのは、僕ですけど。
僕たちは、ケーヴィンのアイデアを実現するために、風穴全体を行ったり来たりしながら作業をしているところです。
つい先ほどまでは、風穴の上部から水を引く管を取り付けるため、上と下に分かれて、位置を検討していました。
ケーヴィンが中層から長いひもを垂らして、僕が最下層でそれを持って歩き回って、流れを邪魔せず固定もしやすい、いい感じの配置を探していたのです。
最初に感じた違和感は、見られている、というものでした。
風穴の中で作業をしているのは、僕とケーヴィンだけのはずなのに、ちょっと離れたところで、チラチラと何かの気配を感じていたのです。
外から人間が入り込んだのかと思い、生命探知をかけても、引っかかりません。
それに、入り口で作業をしているイーオット達も、そこは厳重に警戒しているでしょう。
近づいてくるでもなく、何かをしてくるでもなく。
もともと、風穴には魔道具がそこら中にありますし、中には多少の意思を持つ精霊もいます。
うろうろしている僕たちに興味を持って、騒いでいるのだろうと思っていました。
いきなり状況が変わったのは、ケーヴィンが、空中のカーブを再現しようと、ひもに付与術を使った時でした。
「セイレイヲ! トジコメルノハ!! ダレダー!!!」
驚いて振り返ると、ケーヴィンに向かって空中を舞い飛ぶ亡霊のような姿があるではありませんか。
「ケーヴィンさん、危ない!」
ボロボロの衣をまとった、鬼のような半身が、恐ろしい形相で両手を掲げ、掴みかかろうとしています。
ケーヴィンは、僕の声に驚いてこちらを振り返りましたが、亡霊のことは見えていないようです。
これでは、避けようがありません。
風精の力を発動! ケーヴィンの足元で、空気を急激に膨らませます。
ぼむんっ!
ケーヴィンの体が宙に舞い、亡霊の脇をすり抜けて風穴の中心に吹き飛びます。
「う、うぉえおぉ!?」
謎の叫び声を上げながら、ケーヴィンの体が穴の底に向かって加速し始めます。
穴の底まで十数メートルあります。
そのまま落ちたら、ただでは済まないでしょう。
いや、もちろん受け止めますけどね。
ぼふっと。
ケーヴィンは、何が何だか分からない様子で、腰を抜かしたように地面にはいつくばっています。
さて、あの亡霊もどきは、一体何者でしょうか。




