夢魔の島
「ここは、夢魔の島だ。」
僕を抱きかかえた男が、小さな声で言いました。
僕は、疲れていて、眠くて、眠ったふりをし続けるのも大変そうだったので……寝ました。
目を覚ますと、知らない天井です。おお。
まずしい農村にでも行くのかと思っていたら、意外や、ちゃんとした建物の天井です。
ベッドはかざり気のないものですが、きれいなシーツに、ふわっとした毛布で、快適です。
脇にはテーブル、水差しと木のカップまで置いてあります。
窓の外は畑と森、聞いていたおどろおどろしい地名とは結び付きません。
そういえば、不思議なことに、これだけの建物で、部屋に魔道具がひとつも見あたりません。
僕に向けた探知の気配もなければ、探知の反応もありません。
我が家――ではありませんね、もう。――名にし負う火精の屋敷であれば、窓にも、灯火にも、ベッドにも、ドアにも精霊が封じられているところです。
何も言わなくても、光や風を入れてくれたり、暗くなったら照らしてくれたり、朝になったら起こしてくれたり、誰が来たのか教えてくれたり。
毛玉ほうきやブラシネズミの道具人形も、部屋のふちっこで待機していました。
魔道具の中に封じられた精霊の声も聞こえる僕にとっては、ここはとっても――とっても、静かな場所です。
さてさて。
夢魔の島。
聞いたことがありません。
火精家の図書室に入りびたっていた僕が知らないのですから、普通の地図や歴史の本にはない地名です。
たった一日かそこら、川で流されてきただけなのですから、秘境とかいうことはないでしょう。
あの男たちにとっての、呼び名ということでしょうか。
教えてくれたからには、居てもいいということでしょうか。
わかりませんね。
人を、探してみましょう。
ドアには、鍵がかかっていません。
開けてみます。