生きた魔道具
ミステレンとスミが、風穴を案内してくれます。
スミは、ミステレンのローブのすそをつかんでご機嫌に歩いています。
僕は、その後ろで一人です。
くっ。さびしくなんかありません。
下層の、壁の扉の一つの前に、立っています。
「ここに置かれているのは、魔力を与えながら閉じ込めている魔道具。何代か前の管理者は、少し話をしたことがあるという。」
「どうして、魔力を与えなくちゃならないんですか?」
「魔力がなくなってくると、魔力を求めて根を伸ばすから。」
「植物型の魔道具なんですか?」
こくりとうなずきます。
扉の脇の金属板に、ミステレンが手を当てています。
扉の鍵が外れる音がして、スミが押し開きました。
精霊灯の光が、中の様子を照らし出します。
小さな部屋には、木の幹や枝、根がところ狭しと這いまわっていました。
「うわぁ……」
思わず声を上げると、木の幹にあたる部分で、ぼんやりと光がともります。
「誰? 誰? 誰?」
問いかけてきます。
うっかり返事しそうになり、スミの方を見ます。
聞こえて、いないようです。
スミが近づいて行って、術を展開しています。
何かを語りかけているようです。
「何? 何? 何?」
どうも、うまく伝わっていないようで、混乱しているようです。
人間の言葉のような複雑なしゃべり方は、できないのかもしれません。
スミは少し額に汗をかきながら、厳しい表情で呼びかけています。
「あ? や? イヤ? イヤ」
どうも、あまりご機嫌ではないように感じられます。
「スミさん、ちょっと……」
声をかけてみます。
聞こえてはいるみたいですが、術を続けています。
「イヤ イヤ イヤ!」
拒絶する感じが、強くなってきました。
スミの肩に、手をかけて引っ張ります。
ちょうどそこに、鞭のように枝が振り払われました。
危ない!
おっと。
ミステレンが、手でつかんで抑えてました。
さすがのお兄ちゃん感です。
これは、対話ではらちが明かなさそうですね。
他の枝に触れて、剥奪の術を発動させます。
ぐっと重い手ごたえがあり、ミシミシという音ではない感触があります。
木に宿った精霊のように、生き物に結びついて長い間育ってきたようなものは、そう簡単には引き剥がされないようです。
集中して精霊の体を引っ張っていくうちに、意識がだんだん精霊のそばに引き寄せられていくようです。
「何! 何! 何!!」
植物の根が立ち上がって、僕を取り囲んできました。
触手の群れのようで、うへぇ、と変な声が出ちゃいます。
ミステレンが、後ろから声をかけています。
僕の意識は、引っ張っている感触をさかのぼるように、木の中へと入りこんでいきました……




