風穴の底へ
どうやら、本格的に僕の術を使う場面が来たようです。
今朝は、早々から風穴に出動しています。
ミステレンとイーオットのほか、珍しく、ムクチウスが一緒です。
僕はまだ、ムクチウスがまともにしゃべるのを聞いたことがありません。
ムクチウスの顔をチラチラ見ていたら、ニッコリと笑いかけられました。
うーむ。
熊さんですね。
モフモフでないのが残念なくらいです。
ただし、その格好は、お世辞にも優しげとは言えません。超重装甲と言いますか、巨大な魔道鎧的なものを身に着けています。
えーと、護衛でしょうか?
「ミステレンさん、今日は危険な場所に向かうんですか?」
「うーん、作業によっては危ないこともあるけれど、危険な場所って訳じゃないよ。」
「コーダ君は、例の術を使うだけだから大丈夫ですよ。」
イーオットも言ってくれますが、どうなんでしょうね、どんどん回廊を下に向かっているんですが。
「今日は、最下層まで行きます。」
「ちょっと待ってくださいよ、ミステレンさん。ホントに大丈夫なんですか? 最上層の次が最下層っておかしくないですか? ムクチウスさんのあの装備、なにに備えてるんですか……?」
なんでしょう、兄さま達がよく連れていってくれた、ぱわーれべりんぐみたいなものでしょうか。
あれ、時々わやくちゃなことになるんで、あんまり好きじゃないんですけどね……
「お、見たことないニンゲンだぞ……」
「こどもか? 変わった魔力の色をしとるの……ちょっと味見させてくれんかの……」
「誰かへの捧げ物か?」
「甘そうな血のにおいをしてるな……!」
中層を過ぎると、あちこちでささやくような精霊の声が聞こえてきます。
内容も物騒なものが混じっています。
魔道具の位階も、残っている魔力も、上層とはかなりの差がありそうです。
回廊にもしばしば金属の扉があって、そこに付けられた傷痕が過去の出来事を示しているようです。
壁側に付いた扉の向こうには、個別の魔道具が隔離されているそうです。
そして、最下層部が見えてきました。




