イーオットの料理
結局、僕はそのもう一人の方を見つけられませんでした。
バレないように探知してもいいか、アラクレイに聞いてみました。
「お前の場合、気づいてから気づかない振りをする方が難しいんだから、気づいてないままにしとけ。」
うーん、すっかり子ども扱いです。
こんなモヤモヤしてると、挙動不審になりますよ、と訴えてみました。
「向こうはお前さんを初めて見るんだ。普段がどうかなんて分からんだろう。
普通の状態から挙動不審になるところを見られるよりは、挙動不審なままで始まった方が、次が楽になる。」
ああ言えばこう言う。
すっきりしないのは、僕の気持ちの問題だけですけどね。
ちなみに、家の中の会話は、外からは簡単には聞けないし、聞こうとすれば気付くようにしてあるそうです。
この建物に魔道具が無いのは、その辺りの仕掛けとも関係してるみたいですね。
イーオットの料理は、確かに美味しかったです。
僕は食べたことのない種類の味付けでした。
豆を発酵させて作った調味料が色々あるそうで、イーオットが西の都市国家群のひとつに暮らしていたころ覚えたとか。
ただ、なんでしょう、どれも色合いが……
茶色というか、黒っぽいというか……
自然界で見かけたら、あまり食べない種類の色合いばかりですね。
それに、ドロッとしてたり、ベチャっとしてたり。
最初に微妙な反応をしたのをミステレンに気づかれたようです。
「この料理はね、食べてるうちに癖になるんだよ。最初はね、変な色だと思うんだけどね。何故かね、しばらくするとまた食べたくなるんだ……」
見た目はともかく、美味しいのは間違いありませんでした。
一服してお茶を飲みながら、監視が付いたことをアラクレイが報告します。
すると、ミステレンが、僕の新たな仕事について話し始めました。
「そうか。どこかで何かが動き出すのかもしれないね。
思ってたよりは早いけど、コーダ君にしかできない仕事を、先にやってもらうことにしよう。」




