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アラクレイの教え

「縁のない方の密偵は、どうするんですか。」


「どうもしねぇよ。ただ、そいつは間違いなくお前をマークしてくるだろう。初めて見るからな。」


「僕はどうしたら?」


「さっきも言ったろ? 気づかない振りしとけ。気づいてることに気づかれると、気まずいからな。」


やっぱり、気まずいだけなんですか。


「どういう奴か、お前のことを観察するだろう。

普通は、ここの子供はそのうちどこかの町か村に移り住むことになる。

そうすると、その移り住んだ先で、声をかけたりするわけだ。ミステレンが面倒見てた子供だったら、何かの役に立つだろうってな。」


「でも、僕は風穴に出入りしますよ。」


「ふんふん。そいつは思うわけだ。いつもの子供とは扱いが違うぞ、と。」


「でしょうね。」


「何者か、調べようとするだろうな。」


僕は、家と学園と訓練場以外にはあまり外を出歩かせてもらってませんでした。

関係者以外で、僕の顔を知っている人間は少ないでしょう。


「近所で手に入る情報は、少ないでしょうね。」


「そうでもないぜ。情報が手に入らない、ってだけでも十分な情報だ。

近くで知ってる奴がいない。つまりよそ者だ。

よそ者なのに、ミステレンがいきなり風穴に入れている。

ここで働くってことは、ただの子供じゃない。」


「それだけじゃ、僕のことを知ったことにはなりませんよ。」


「だな。

そこで、ちょっかいをかける。事故か、そこらの獣をけしかけるか。

お前は、ギリギリのところでそれとなくやり過ごすだろう。」


「でしょうね。腕を見せびらかすつもりはありませんが、ケガしたいとも思いません。」


「その年で、その見切りだ。ただもんじゃねえ、ってすぐバレちまう。」


「そんな都合よく解釈するんですか? 偶然、怪我せずに済んだだけかもしれないじゃないですか。

大人って、いい加減ですねえ。」


「プロは、偶然を信用しないんだよ。何かが起こったら、そうなるのは必然だったと考える。偶然だったかもしれなくてもな。

それが、ヤバい橋を渡っても長く生き残るコツってことだ。」


二人とも、口元も動かさずに歩いています。

何だか、秘密作戦っぽくて楽しくなってきます。



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