密偵の影
本日2投稿目です。
「さっきの話、僕が普通の町の子の振りをしていても、あんまり意味なかったってことですか?」
「いや、町の子の振りっていうか。そこらへんの町のガキに、お前さんみたいな奴はそうそういねぇよ。」
アラクレイは、苦笑しています。
なんと。バレバレだったんですか……
ま、いいんですけどね。
川を渡って、道なき道を進んでいきます。
確かに、先にこの草原を抜けていった人たちがいたようですね。
アラクレイに言われなければ、僕も気づけなかったかもしれないくらい、かすかな痕跡です。
「迷いがない道取りだな。何度か来ている奴だろう。」
だいぶん日も傾いて来た頃、家の近くまで帰ってきました。
「気づかない振りをして通り過ぎるぞ。
気づいたことに気づかれるなよ。気まずいからな。」
アラクレイがくつくつと含み笑いをしながら歩いています。
どうやら、危険度は低い存在のようですね。
あ、いました。
丘の上の岩の、少し脇の一回り小さな岩の縁に、何かがへばりついています。
アラクレイが、楽しそうな声で話しかけてきます。
「今日の夕飯はイーオットの当番か。あいつの飯の秘訣はな、溜め込んだスパイスと長いこと使い回してるソースだ。
ネチネチとめんどくせぇ性格だが、そうでなきゃ作り出せねぇ味があるってことは俺は認めてんだ。
楽しみにしていいぞぉ。
肉でも、魚でも、ほんのちょっとあいつの隠し味が入るだけで、じんわりと皮も脂も旨くなってな……。」
珍しく長くしゃべるなーと思っていたら、例のへばりついてる影がゴソゴソしています。
「あいつはまだ駆け出しなんだ。」
今度は微かにしか聞こえない声でアラクレイが言います。
「ここから出ていって、別のところで雇われて、ここの様子を偵察しに来る。イーオットの飯の味も知ってるってわけだ。」
「つまりそれって、二重密偵ってことですか?」
「直接やり取りなんかしねぇよ。ただ、平和にそこそこの情報を持ち帰っていくんだ、お互い悪いこたないだろう?」
はー。ズブズブじゃないですか。
緊張して、損した気分です。
「まだ緩むんじゃねえぞ。もう一人いる。そっちは、ここと縁のない奴だ。」




