茶虎丸の呪い
行きは走り抜けてきた街道ですが、帰りは普通の人の歩く速さです。
帰りはゆっくりなのですね、とアラクレイにたずねたら、「野菜やワインが傷むからな。」という返事でした。
食べ物、どれだけ大事なんですか。
いいことですけど。
せっかくなので、荷物を入れている袋の中に水気と冷気を送り込んで、鮮度を保つようにしながら歩いています。
貴族向けの生鮮食品もこのように運ぶことがあると聞いていましたが、自分でやってみるとなかなか贅沢な術の使い方です。
僕ですか? 鼻唄歌いながらでも平気ですけどね!
鼻唄といえば、先ほどからシャトヤンが変な音を出しています。
普通の人には風か草の音にしか聞こえないかもしれません。
あ、シャトヤンというのは僕が例の猫目石の精霊に命名しました。
剣には茶虎丸という名前が付けられたんですけどね。
変な音を出しながら、「こーいこーい」とか妙なことも言ってます。
どうやら、何かを呼んでいるみたいですね。
と、アラクレイが足を止めます。
「お? 珍しいな。こんな時間にカバネカラスか。」
その視線を追うと、森の方から大きな青黒いカラスが三羽、こちらに向かってきています。
……シャトヤンが呼んだようですね。
こいつ、ちょっと良いところを見せようと仕込んだということでしょうか?
そんな風だから呪いの品扱いされるんですよ!
と、そのカバネカラスに襲いかかるもっと大きな影が木々の間から飛び出してきました。
カバネカラスは慌てて散開すると、森の中に隠れてしまいました。
その新たな影――低位の飛竜ですね――が、こちらに目を向けます。
やだなぁ、目が合っちゃいました。
「アラクレイさん。」
「しょうがねぇな。コーダよ、お前さん腕はどんなもんだ?」
あの程度の飛竜なら狙撃で瞬殺ですが、シャトヤンのおバカに花を持たせてあげましょう。
「身を守る程度は問題ありません。」
「なら、お前さんの任務はこれを守ることだ。」
食べ物とワインを預かりました。
責任重大ですね。
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