ケーヴィンの付与術
さて、さっそく付与を行います。
ケーヴィンが、特殊な布を敷いた付与術用の作業台に、無骨なアラクレイの剣を横たえます。
刀身や柄に、六粒の小さな精霊石を詠唱とともに置いていきます。
星座のように、光の筋がつながっていきます。
まずは仮置きのようで、つぶやきながら、少しずつ位置を調整していますね。
時々首を傾げたり、頷いたりしていたかと思うと、やがて満足げに腕を組んで眺め、それから猫目石の精霊石を額の前にかざしています。
詠唱……というより、何か呼びかけているようですね。
「アラクレイさん、ケーヴィンは精霊石と対話ができるんですか?」
「いや。通じているかは分からんが、話しかけるとうまくいくような気がすると言っていた。願掛けのようなものだろう。」
ふーん。
僕は付与術は使えませんが、身の回りには高位の付与術士がゴロゴロいました。
兄様達が練習をするところも見ていますから、習いたての技から一般には秘密とされている術式まで、付与の場面は数多く見てきたつもりです。
ただ、こんな風に、石のご機嫌をうかがうようにしながら付与を行う術者は、見たことがありませんでした。
家で教えてもらっていた術では、事前の計算と設計に従って術式を構築しておいて、その通りに石を配置して、一気に強力な霊圧をかけながら精霊を封じ込めていたのです。
石の声を聞ける術者もたまにいましたけど、精霊とは使役するもので、支配できない状態で付与に用いるなんて発想はなかったように思います。
僕が見てきたものは、意外と狭い世界の術でしかなかったのかもしれません。
ちなみに、髪留めの精霊は、「ごちゃごちゃ言ってないでさっさとしろってーの、このフニャフニャ野郎が。もったい付けるんじゃないよ、もう」と文句を言っています。
何がフニャフニャなんでしょうね。
呼びかけたおかげで成果が上がっているのかは、微妙なようです。
剣の重心部分に猫目石を添えて、全体に付与術を発動させたようです。
猫目石からの光がツタのように剣にからみつき、六粒の石と一緒に溶け込んで一体となりました。
剣の形は変わっていないはずなのですが、質感や色合いなど、無骨な中にも華やかさが感じられるようになっています。
ケーヴィンがふう、と息をつくと、アラクレイに剣を渡しました。
「どうやらこの精霊石は、俺を気に入って力を貸してくれたようだ。いい剣になった自信があるぜ。試してみろよ。」
「あんたじゃなーい! あんたのためじゃなーい!!」
苦情が聞こえますが、気にしないでおきましょう。




