村の鍛冶屋の付与術士
そんなわけで、アラクレイと僕は川を渡って近くの村に向かっています。
川岸に隠ぺいの術で隠してあった小船は、ちょっとした魔力で進むよくできた魔道具です。
「そういえば、風穴の仕事で、アラクレイは魔力を使わない作業をしてるって言われてましたね。あれってどんなお仕事なんですか?」
「ああ、暴れまわる奴と立ち合って、少しでも魔力を消耗させるってのがあってな。術を使うとそれも吸収されちまうんで、体さばきと読みだけでかわしつづけなきゃなんねんだ。」
「……なんか、凄そうなお仕事ですね」
「コーダもちょいと鍛えてやろうか? 術士だって、立ち回りができるとできないじゃ、全然違うぜ。」
僕も一通りはこなせるはずですが、この人の間合いではかなう気がしません。でも、だからこそ修行になるんでしょうね。
「はい、お願いします。」
あとで、この気楽な返事に後悔することになるんですが、それはまたのちのお話ということで。
隣の村までは小走りに近いようなペースで移動していきます。
普通の人なら数分で根を上げる速さですが、こちらを確認もしません。
むしろ鼻唄が微かに聞こえてきます。
鼻唄? アラクレイではなく、預かってきた精霊石から聞こえているようです。
ごきげんなようで何よりです。
往復で半日と聞いていましたが、四半刻ほどで到着しました。
アラクレイは汗もかいていませんが、僕は息が上がっています。
ちなみに、汗まみれになるのは嫌だったので、途中からわずかに冷気をまとっていました。
ふうはあ。
「そいじゃ、鍛冶屋に行くとするか。」
「鍛冶屋なのですか?」
「ああ、こんなへんぴな田舎じゃ、付与術だけじゃ仕事が少なすぎる。最近は精霊石もなかなか採れなくなって、値が上がっちまってるから、魔道具の製作の依頼も減ってるしな。
たいてい、何か別の仕事と兼ねてる。」
「付与術って、希少な能力なんだと思ってました。そんな、食べていくのに困るようなものなんですか?」
「いや、稼げないって意味じゃないぜ、暇だってだけでな。腕も悪くないし、今回の仕事も、きっと喜んでやってくれるさ。
と、ここがケーヴィンの店だ。」
見たところ、店というより単なる作業場で、あまり客にアピールする雰囲気はありません。
ま、小さな村なのですから、一見さんなどいないのでしょう。
「おい、ケーヴィン、いるんだろ? 珍しい仕事を持ってきたぜ。」
アラクレイが、勝手に入っていきます。
中は薄暗く、目がなれていないのでよく見えません。
ふと横を見ると、入口のすぐ脇に、薄汚れたボロのような男がうずくまっていました。
ひいっ、く、臭い……
「おお、ケーヴィン、そんなとこにいたか。」
アラクレイが振り返ります。
この人が?
さっき、思わず浄化と消臭の術を発動させてしまいました。
し、失礼に当たらないといいのですが……




