石の精霊の想い
剥奪術の午前中の成果は、以下のようなものとなりました。
人格を持つレベルの精霊石の回収が1、ごく小さな精霊石を形成できたものが11、精霊を抜き出したものの精霊石に結晶化できず霧散してしまったものが8ということで、20点の品物を無害化処理完了、です。
ただし、例の髪留めの精霊が人格を持っていることは、イーオットには伝えていません。
従来は、週に5点も処理できれば普通ということだったので、単に処理のお仕事としては圧倒的な早さです。
昼ご飯を食べながらのイーオットからの報告に、みんなびっくりしていました。
そして、髪留めから抜き出した精霊石を目にしたとき、スミが反応しました。
「その石は、ひょっとしてあの髪留めのもの?」
ほんとうに、スミには特殊な能力があるんですね。
イーオットが答えます。
「そうです。コーダ君が、この石を使って再度の付与の実験をしてみたいと提案しているんです。」
スミがこちらを向いて、小首をかしげながら問いかけてきます。
確かに自分で言うだけあって、ちょっとかわいい仕草です。
ミステレンはこちらを向いてますが。
「確かに魔力は残ってますけど、わざわざ風穴の管理人に魔道具を作らせようだなんて、どういうつもりですか。」
「この魔道具は、持ち主に不幸をもたらしたそうですね。害をなすと思われていた精霊でもう一度魔道具を作った時に、やはり害をもたらすのかどうか、確かめてみたくないですか。」
イーオットが、スミに髪留めの精霊石を渡します。蜂蜜色の猫目石です。
「石の声を、聴いてみたらどうですか。」
頷いたスミは、精霊石を両手ですくうように捧げ持ち、額の前にかざしてブツブツと何かを詠唱しています。
精霊石がほのかに輝き、何かを念話で伝えているようです。
「頑張れ、あたし。ここが勝負だよ。このカマトト娘を何とか言いくるめて、もう一度、シャバに出てやり直すんだ…… そして、この人と一緒に……!」
石の精霊の声が聞こえてきます。
スミの表情が変わらないことからすると、彼女には、どうも別の声が聞こえているようです。
石の光が収まった後、皆の注目の下、石の精霊の宣託を伝えてくれます。
「この石は、風穴で過ごした年月のうちに、浄化されているようです。細かい経緯は分かりませんが、アラクレイさん、あなたに忠義を尽くす準備があるそうです。」
なるほど、僕に聞こえてくる「心の声」と違って、スミが受け取っているのは「公式回答」みたいなもののようですね。
ふうん。




