髪留めの乙女
あの変な歌を歌っていた精霊の髪留めですか……
「なんなの、なんなのよぉぉ…… まだ、あたしはこんな所で終わるわけにはいかないのよぉ……」
棚から持ち出された時点で、結構騒いでいます。
僕達が、精霊灯が灯る品物まで袋に入れていたのが分かっているのでしょう。
「イーオットさん、その髪留めなんですが、結構魔力が残っていますよね。今にも壊れかけってわけでもなさそうに見えるんですが、どうしてこの風穴に置かれているんですか?」
「これですか? 確かに魔力はあるんですが、機能の発動が不安定で、持ち主に害が及んだこともあるらしいんですよ。土精と風精をまとう精霊で、付けた者の身を守る力があるという触れ込みだったんですけどね。」
「あ、それで呪いの品の扱いになってしまったってことですか。ちょっと見せてもらっていいですか。」
髪留めを受け取って、棒読み風に語ってみます。
「持ち主に害が及んだって、どういう状況だったんだろうなー。知りたいなー。」
「だって、だって、あの女、あんなにいい旦那がいるのに、見てくれがいいだけのろくでもない優男を連れ込んで、しかもあたしの代わりに、安物の髪飾りもらって喜んじゃって、うわぁぁん……。」
「イーオットさん、持ち主への害って、どんなものだったんでしょう。」
「うん? 髪留めの呪いで持ち主の髪が抜け落ちたり言動がおかしくなった、夫婦仲が悪くなったといったいわくがあったらしいですね。あくまで噂の域を出ませんが。」
原因がこの髪留めかどうかはともかく、何だかまあ、縁起の悪い品になってしまったことは確かなようですね。
「この辺りで、付与術を使える方はいませんか?」
「村まで行けば、多少の品を作れる術師がいますね。往復すると半日かかりますけど、何か考えがあるんですか?」
「この精霊を、別な魔道具に移してみたいんです。実験に、付き合ってもらえないでしょうか。」
「なるほど。壊れた魔道具の精霊は、ほかの品に付与されるとどうなるんですか?」
「僕も、それは試したことがないですね。ただ、この魔道具は、壊れているとか呪われているというわけではない気がするんです。中の精霊も、まだ働いてくれるんじゃないかって気がしまして。」
髪留めの精霊の声がします。
「あんた、いいこと言うじゃない! ヘタレのくせに!
そうよ、あたしは髪留めなんかじゃなくて、あの人の剣になりたいの!
逞しい、あのお方…… いくらあたしが輝いて見せても、髪留めじゃ見向きもしれくれなかったけれど、剣なら、剣なら……」
ふうん。
それはともかく、ヘタレは余計ですってば。




