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剥奪の始まりの始まり

翌朝から、風穴でさっそく剥奪の術を使ってみました。


実験とは言いつつ、魔力が少な目の魔道具を手にとって、軽く念じるだけです。


指輪、腕輪、羽ペン、精霊灯、薬瓶……

生活に便利な魔道具などは、もともと低位の精霊が封じられているだけですし、小さな魔道具の場合は、引き剥がした後に石の形にまとめ上げるのも簡単なのです。


この程度の精霊は、意思も持ちません。

精霊石に変えても、米粒のようなサイズです。


イーオットの、記録する手が止まってしまいました。


「精霊から魔道具への変換には、魔導力場の形成が必要だ……まして逆の変換となれば位相の展開を発散させず、さらに凝集、結晶化させていることになる……」


目は手元の紙を見ているのに、焦点が合っていない感じです。

いけませんね、せっかくの整ったお顔が、ちょっと怖い感じになってますよ……


「言っておきますが、僕にもこの術がどういう理屈で動作しているのかは分かりません。何年も考えたんですけどね。」


「今、分かっていることを教えてもらってもいいですか。」


「はい。発動に関しては、触れて念じれば始まります。濡れていたり少し汚れていたりしても大丈夫ですが、泥やホコリで覆われているとダメですね。紙や布地を挟むだけでも遮られます。」


また何か独り言のようにブツブツと始まりましたが、続けてしまいましょう。


「魔道具が大きいと、中の精霊も薄く大きく広がっているような感じで、集めるのに少し時間がかかります。

素材の性質も、影響します。固さというより、精霊との馴染みやすさと言うべきかもしれません。強力な鎧や高位の術に使う特別な布などは、ゆっくりとしか精霊が離れない気がします。」


「それは、実験済みということですか?」


「予測ですね。僕は、元には戻せませんから。」


ああ、叱られたことが思い出されてちょっと体が震えてきます。

あの時は、抜き取った後の素材の形も歪めてしまったせいで、兄さまにも元に戻せなくなってしまったのでした……


「これ、オヤジにバレたらぶっ殺されるぞ……」

顔色を失った兄さまたちの、幼い頃の顔が浮かびます。


思えば、兄さま達にもたくさんの迷惑をかけ、そして守ってもらっていた日々でした。

ぐすぐす。


「では、この魔道具で試してくれますか。」


イーオットが持ってきたのは、少し錆び付いた髪留めでした。

見覚えがありますね。


あの、変な歌を歌っていた精霊が封じられている髪留めです。

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