剥奪の力
僕が針を返そうとすると、イーオットは少し不思議そうな顔をしてから受け取りました。
そのすぐあと、針を眺めて眉間にしわをよせたかと思うと、何か言いたげにこちらに目を向けてきます。
先に、こちらから説明してしまいましょう。
「イーオットさん、ちょっと、曲げてみてもらえますか?」
イーオットが指ですこし撫でただけで、針が、くにゃりと曲がりました。
「これは……?」
驚いたでしょう。
「先ほどのお話で言えば、魔道具の形を取っていた精霊の、ぬけがらです。……本体は、こちらに。」
指にはさんだ小さな薄黄色の精霊石を、ピースサインっぽく顔の前に掲げて見せました。
決めポーズです。
ウインクもしようか迷いましたが、イーオットの口がゆっくりと開いたまま固まっていて、笑いはとれなさそうなのでやめておきました。
実家にいた頃も、メイドたちにも僕の冗談はなかなか通じなかったんですよね……
クスン。
「そ、その精霊石が……本体? 一体、どうやって魔道具から……?」
「これが、僕だけの特別な、そして生まれ育った家を出なければならなくなった原因にもなった、『剥奪の術』です。」
「は、はくだつ……剥奪? ひょっとして、君の一族には、黒の系統の者がいたのですか……?」
「それ、僕の母や兄も口にしていました。黒の気配、と。ただ、強く否定していましたけど……」
イーオットが、目まぐるしく表情を変えながら、腕組みをして考え込んでいます。
僕よりも、色々な事情を知っていそうですね。
少し考えがまとまったのか、表情がいつものように穏やかになり、朗らかな口調も戻ってきました。
「コーダ君、この話は、ここの管理人みんなに関わる事柄です。特に、スミにとっては重要な内容が含まれる可能性があります。
夕食の時に、皆で話し合うということにしても、大丈夫ですか。」
「もちろんです。僕は、ここで、皆さんと一緒に暮らしていきたいと思ったから、打ち明けることにしたのですから。」
「そうですか、ここに留まる気持ちはあるのですね。ちなみに、本音のところはどうですか?」
「めぼしい精霊の力だけ抜き取って去ろうかとも考えました。
でも、どこかの街にもぐりこんだとしても、ここより美味しいものを食べられる未来が、想い浮かばなかったものですから。」
ふふふ、とイーオットが微笑んでいます。
「じゃあ、夕食どきの平和を守るために、今日は頑張ってもらうことになりますね。」
僕は、まだその言葉の意味を分かっていませんでした。




