決着
「ザオリストさん、ザオリストさん。」
どれくらい、経ったのでしょうか。
コーダの念話が聞こえてきました。
暇そうに小さな精霊同士を闘わせて遊んでいたケーヴィン師が、懐から、精霊石を取り出しています。
あれが、かの「教会のオルガン」ですか。
「どうした、コーダよ。」
「ザオリストさん、ちょっと、仮の体を一体作って欲しいのですが、頼めますか。」
「ほう。勇者の身体か?」
「そんなに強くなくても大丈夫です。いや、むしろ普通の子ども並みに、弱くしておいてください。」
「そんなに弱くてよいのか? ふむ。その程度であれば、今わしの持つ魔素だけでも足りるだろう。」
「ありがとうございます。」
「形は、魂の記憶に従うようにしておけばよいか?」
「そうですね。特に、姿を変える必要はありません。」
「では、素体で組み上げるとしよう。」
ザオリストの前に、黒い靄が寄り集まり、子供の大きさの、木人形のようなものが生み出されました。
え……?
リュシーナは訊ねる。
「ケーヴィン師に、お聞きしたいのですが。」
「ん。なんだろうか。」
「ザオリスト殿は、今、精霊石ですよね。」
「そうだな。」
「……どうして、勇者の術を使えるのですか。」
「一応、俺が、発動しているぞ。」
「……ケーヴィン師の、力なのですか?」
「いや。ザオリストの中の術を、俺が、呼び出しているだけだな。」
「勇者の術を、ザオリスト殿自身が、持っていると?」
「ああ、そういう話か。コーダが魔道具に剥奪をかけるとな、精霊は、素材の力だとか魔道具の術式の一部を抱えたまま石になるんだ。アビスマリアさんも、コーダも、単なる石じゃ、なかっただろ?」
「そう、なのですか……。」
「お。コーダが、帰ってくるぞ。勝負が着いたのか。」
木人形に、石板の端末から移って憑依していく存在があります。
姿が、人間のように、変わっていきます。
ほっそりした四肢、白っぽい服、銀の髪。
床にぺたんとしゃがみこんだまま、うつ向いていて、顔は見えません。
……コーダは、自力では憑依ができないはずでは……。
そう、この波動は、コーダでは、ない!
「お前は、誰だ!」
「……久方ぶりの、魔素の身体じゃな。なんとも頼りない……。」
その銀髪の少女は、独り言をつぶやきながら、ゆっくりと立ち上がりました。
「だ、誰だと、聞いている!!」
「騒がしい奴じゃな。そなたは、魔杖の娘か……。儂は、イジュワールじゃよ。」
「イ、イジュワール!? 」
ば、馬鹿な…… なぜ、イジュワールが……。
「初めましてと、挨拶が必要か?」
やる気のない、だるそうな声です。
「コ、コーダに、何をしたのです……?」
「小僧……コーダか? 儂は、別に何もしておらんよ。ああ、儂の力の半分を、奪われたがな。」
イジュワールが、ニヤリと笑う。
「コーダと儂は、同志となったのじゃ。手始めに、帝室と五精家は解体していくことになっておる。お前さんには、女王になってもらってもよいかもしれぬな。何にしろ、これから、よろしうな……。」
な……。
頭の中が白くなっていく。
「コーダ、コーダ……?」
石板が、赤く光を放ちました。
よかった、コーダの波動です……
え?
「ふふふ、ふぁーっはっはーっ! 我は今、帝国のすべてを掌握した!」
「ミッ、ミツルギィ!! 今すぐ、ここに雷をぉ!!」
「待って、待ってください、リュシーナさまぁ! 冗談、冗談でございますよぅ……!」
石板から再び石となって飛び出してきたコーダは、空中で激しく上下しながら訴えてきます。
「……一体、何がどうなっているのか、ゆっくりと説明していただきたいものですね。」
ふわふわと目の前に浮く、赤い精霊石を、そっと両手で捕まえました。
次話、エピローグです。
本日中に、投稿予定です。




