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イオタの国

「それはそれは、素敵な隠れ家だったのでしょうね。」


「ふ。最初に作り始めた頃は、大したものではなかったぞ。街で買える素材と、分配するまでもない下等級の精霊石……。」


「でも、限られたわずかな資源の中で、何を選び、何をあきらめ、どう作り上げるか……。」


「それが、何よりも楽しいのじゃ……。む。貴様、儂の話に、入ってくるでない。」


「やはり、あなたは僕が見込んだ通りのお人です。

そうして、あなたの家づくりは、やがて規模を拡大し、最後には、あなたは国と呼べるものを作っていったと。

が、それは、仲間を迎えるための場所でしかなかった。」


「ふん。儂のことなぞ何でも知っておる、というわけか。」


「そうですね。帝室と五精家という仕組みを仲間内に提供してみたものの、反応が今一つだったこととか、すぐに飽きて適当な人間に地位を譲ってしまった仲間が出たこととか。」


「貴様!!」


「顔を真っ赤にするのは、やめてください。歴史と向かい合わぬ者は、真実に背を向ける者ですよ。」


「ああ、そうさ。奴ら、儂の用意した邸宅も執務室も、ままごとには付き合えぬなどと、言いおって……!」


「でも、国の名を、貰ったのでしょう。」


「……人の心に…… 無遠慮に、踏み込むものではないぞ……。」


少し哀しげな、イジュワール。




それは、ここの精霊達が思い浮かべる、イジュワールとかつての仲間達の光景。


「隠れ家ってもよー、こんな地下で、出入りも面倒で、女連れ込むのもダメだとか、俺にはなんも有り難くねえし。」

品のない戦士風の男が、ぼやいている。


「わ、ワタシが、あんた達の帰りを待ってる場所なんだから、ワタシのルールに従いなさいよ!」

今とは口調が異なるが、イジュワール。


「こん中にいても、本でも読むか、魔道具でもいじるしか、することないじゃねぇか。まったくお前は、顔は可愛いけどオタだよなぁ。」


「レディに向かって、『けど』は余分じゃないかい。」

別の男が、優しげな声で口を出す。


「ワタシは、可愛くなんかない。」


「『可愛』くなくて、『けど』がないなら、イオタだね。」


「なんのこと?」


「イジュワールのこの隠れ家は、イオタの家って名前にしたら、って。」


「かわいいおた…… って、駄洒落じゃん!」



コーダは、告げる。


「僕は、あなた以外の勇者になぞ、興味はありません。この帝国という素晴らしい作品が、このまま朽ち果てていくのが耐えられない、それだけなのです。」


「……それで、帝国の半分とは、何のことじゃ。領土か。財か。それとも、人か?」


「いずれでも、ありません。強いて言えば、あなたの力の半分、かもしれません。」


イジュワールは、眉間にしわを寄せて、目を閉じている。


「貴様……精霊の力さえ、奪えるのか……?」


「いえ。

ひとつ。人に憑依をしないこと。

ひとつ。広く知識を伝えること。

この二つを、約束していただきたいのです。

あなたの力の、半分を、割譲するようなものではありませんか?」


「……それが、お前の利になるのか?」


「憑依をやめてもらえれば、ともに歩ける仲間が増えます。

知識を広めていかねば、ともに歩きたいと思える人間が増えません。

ま、知識が欲しいのは、主に僕ですけど、僕一人で吸収できることは、限られますので。」


「儂への、見返りは。剥奪の力とは、どういうことじゃ。精霊石を、提供するということか。」


「それもありますが、剥奪の力があれば、今ある場所から、精霊を解き放つことができます。あなたが今までに構築してきた諸々を、再構築できるのです。」


「再構築。再構築……。」


「そして、その点が、僕にとってあなたが必要な理由でもあります。

剥奪の術で精霊石は回収できても、あなたの作る魔道具は、単に精霊石の力に頼るだけではなく、構造自体にも、機能を持たせています。このような魔道具の組み合わせを再現できる人間は他にいないのですから、石を回収して新たな魔道具を作るだけでは、劣化が避けられないのです。」


「今までに、構築してきたものの、再構築……。」


「失敗を失敗と認めましょう。僕は、やり直しのための手段を提供できるのです。皇帝や五精家なんて、もはや単なる空席のお飾り。思い出と一緒に、整理してしまえばよいのですよ。」


「……一つだけ、よいか。」


「はい。」


「憑依をやめたら、あの男は、再び儂の話し相手になってくれると思うか。」


「僕から頼めば、大丈夫でしょう。あの人も、ちょうど今、変わろうとしている所だそうですし。」


「そう、か。」



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