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帰ってきたイジュワール

イジュワールは、ゆっくりと、ゆっくりと思考を巡らせている。

時間は、我が同胞。

焦っては、ならぬ。


魔剣の雷撃で、憑依体を消し飛ばされた。

その後、絶魔体に封じられ、どれくらい経過したのか。


そして。


何が起きたかは分からぬが、唐突に、懐かしい場の気配と、無限の暗闇からの解放を感じ取った。

全力で跳ねて飛び出すと、潜り込んだ先は、帝都の給仕端末室。


思わず叫び出すほどに、笑いが浮かんできた。

帰ってきた! 儂は、帰ってきたぞ!!


「ククク、ファファファ、ハッハッハァーー!!」


それにしても、危ないところだった。


あいつらは、頭のおかしい連中なのか?

巫女一人を助け出すために、戦争の支度をするとは。

魔剣士の奴は、仲間の小僧ごと、儂を焼き払いおった。

一体どういう集団じゃ。

スミに特別の価値があるのは、儂くらいのはず。

あの小僧は、変わった術を持っていたが、その術と引き換えにするほどの意味があったのか?

霊樹の精霊も、スミの身代わりを買って出るとは、意味が分からぬ行動じゃ。


……いかん、いつもの無限の独り言の癖が、始まってしまいそうじゃ。


イジュワールは、口をつぐみ、独り言を止める。


三度深呼吸して、いったん思考を再起動する。


一体、誰がここに儂を放ったのか。

儂の作り上げている、転移の機能とは、違うようじゃ。

これは……この給仕端末に、縛り付けられておるのか?

外へは移動できぬようだが、通信は可能か。他の機能も、使えるの。


端末室の監視装置を、起動させる。

この端末室への隠し扉が、開いたままになっている。

見れば、あの魔杖の娘と風穴に出入りしていた付与術師の男が、ここまで入り込んでいるではないか。

奴らめ、どうしてここへ……。


ぞわり。

異物感を感じて仰ぎ見れば、隣の給仕端末の空間の中に、例の小僧が、隠れもせずに立っている。


馬鹿な! 

人間が、あれほどの魔剣の力を受けて、なぜ生きている!?

奴は、勇者だったのか!? 

ち、違うはず。

いや、これは、精霊体か……?

霊体に、転生した……? 

あの状況から? 

儂でさえ、あれほどの準備を要したというのに?

あ奴、儂の知らぬ精霊を、まだほかにも従えているのか? 

それとも、儂も知らぬような魔道具か…… 

くぅ、分からぬ、分からぬが、どうする!?


三度、深呼吸する。


落ち着け。

儂は、イジュワール。

帝国の、宰領ぞ。


奴らが帝室の下で動いているとすれば、儂を救い出すことこそ命令のはず。

スミや小僧の件はともかく、奴らがどれほど儂を恨もうとも、その儂を本気で害することは、できぬはずじゃ。

裸の石の状態ならば、シュッツコイとて用意に儂を消滅させられたであろうしな。

苦し紛れに、この端末室に、縛り付けておこうと、そういうことか。

確かに、ここには誰も出入りできぬからな。


くくく、小僧、どんな力を持っているか計り知れぬが、人に仕える身の哀しさよ、主人の命には従わねばな。

どれ。




コーダは、魔道具の空間の中に、ぼんやりと、たたずんでいた。


ふう。

溜息の出るような、魔道具内の光景です。


背景は漆黒、一粒一粒は目に見えないほど小さい微精霊が、無数に連なり、揺らめくような光の繊維を紡ぎだしています。


その繊維が、川の流れのように、大きな流れや浅瀬、渕、小さな滝、あらゆる方向に広がりながら、複雑なつながりを重ねているのです。


かすかな魔力の変動が、さらさらと、さざ波のように移ろいながら、波紋を伝えていきます。


ああ、何て素晴らしい、無限に連なる精霊の循環と折り重なり……。

もはや、これは、精霊の小宇宙だぁ……。


イジュワールの笑い声が、隣の端末の方から、聞こえてきました。


「ククク、ファファファ、ハッハッハァーー!!」


あ、重付、されてきたようですね。


おや、なんでしょう、しばらく、ブツブツと早口で何か言っていましたが、急に、深呼吸をしだしました。


再び、何かまたブツブツと言い出したかと思うと、途中で、こちらに気づいたようです。

また、唐突に、深呼吸をしています。


それから、大声を上げながら、こちらに、近づいてきました。

精霊体なので、滑るようになめらかに、宙を飛んできます。

魂の姿を見るのは、初めてですね。


腕組みをして宙に浮いているのは、銀のおかっぱ髪の、少女。

ひらひらとしたシルエットの袖の短い服からは、細く華奢な腕が伸びています。


「小僧ぅ、感謝はしているぞぉぉ! お前達が、儂を、ここまで送り届けてくれたことにはなぁぁ!!」


とりあえず、挨拶から入りましょうか。


「直接お会いするのは、初めてですね。改めまして、コーダです。」


「ほほぉ。儂の姿を見ても、驚きもせんか。」


「かつて勇者だったと、聞いております。あの時代に見出された麒麟児は、幼かろうと、すぐにでも実戦に駆り出されたことでしょう。」


「はっ。じじいの様な、口を利くではないか。こんなところまで来ておいて、何故に儂を放つ気になった。今までの非礼を詫びて、命乞いでもしに来たか。」


「命乞いは、しませんが、僕は商人ですので、商談を持ってまいりました。

わが力は剥奪の術。

その力を提供する見返りに、あなたの帝国の、半分を、いただきたいのです。」




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