最後の戦いへ
リュシーナ達は、帝都に戻り、それぞれに行動していた。
ミステレン殿とスミさんは夢魔の一族の元へ、シュッツコイ殿は帝室官房長室へ。
私リュシーナとケーヴィン師は、コーダと共に、通信網の詳細な探知を繰り返して、帝都の地下に隠蔽されていた魔道通信網基幹部の、さらにその奥の隠し部屋へとたどり着いたところです。
ミツルギは、コーダの指示に従い、地上部に待機して、緊急時に備えています。
「ミツルギ様。こちらコーダです。隠し扉の解錠を完了しました。これより、中枢部に、進入します。」
魔道通信網は、全体としてはイジュワールに切断されたままなのですが、部分的に追加で簡易のものを構築して、働くようにしています。
私の頭には、コーダの「最後の戦い」という言葉が常に浮かんでいます。
そっと、胸元に手を当てます。
「ずっと手に握っているのも落とすかもしれませんし、両手を空けておいた方がいいでしょう。」
コーダからの提案で、ケーヴィン師がネックレスの鎖と台座を魔道具で仕立ててくれたものです。
「緊急時に何が起こるのか、どうするのかは、不確定要素が多すぎて、まだ話せません。推論を重ねただけの仮説で、こちらにきているのですから。」
ミツルギが訊ねた時も、コーダは、そう言って、詳しい考えを語りませんでした。
隠し扉の奥の部屋は薄暗く、人よりも大きな石板のような魔道具が数百基並んでいるだけの、殺風景な空間でした。
探知にも、人間の反応はありません。
「ここが、魔道通信網をたどってたどり着いた、中枢のはずですね。
でも、なんでしょう。制御盤も映像装置も何もありませんし、ここで人が何か作業をする部屋には、見えませんが……。」
「いえ、ここで正しいのだと思います。」
コーダが言います。
ふうぅぅ……
石に深呼吸などあるわけがないのですが、コーダが、精神を集中させている気配を感じます。
「それでは、リュシーナさま。この端末に、僕を、重付してください。」
「この、石板のような、端末にですか。」
「そうです。通信網の時のように、僕を、後ろ側の扉から導き入れるような、感覚です。」
こくりと、うなずきます。
いざとなれば、離脱できるのですよね……。
「ケーヴィンさん、アビスマリアさんの力を発動させて、手伝ってください。やり方は、アビスマリアさんにお任せで、大丈夫です。」
「お、おう。」
首からネックレスを外し、赤い精霊石を、端末に近づけます。
「精霊を、ここへ。」
赤い石が、水滴にでもなったかのように、するりと石板の表面に溶けて消えていきます。
あとには鎖と、空っぽの台座が、残されました。
「……せっかく作ってもらったネックレスです。ちゃんと、元に戻ってくださいね。」
アビスマリアさんの力が展開されて、魔道具たる端末の構造が、空間的に知覚されます。
「えっ。」
飾り気のない、大まかに切り出された石板のような端末。
放っている魔力も、それほど大きなものではありません。
にもかかわらず。
「こ、こんな素朴な見た目なのに、な、なんて膨大な構造なの……。」
「まじかよ…… なんじゃこりゃ……。」
ケーヴィン師にも、見えているのですね。
「これは……、一つ一つは、単純で微力な術式や精霊が、考えられない量で、配置されていますね……。」
「こんなのを見てしまうと、僕らの方は野蛮人そのものですね。
石板の中に集積されているのは、数えきれない微精霊による機能の集合体。
ここが、イジュワールの持つ力の、中枢ですよ。」
コーダは、中の空間を、自分で見て回っていたようです。
「さて、リュシーナさま。これから、最後の戦いに、挑みます。
イジュワールの石を、重付してください。
ふふ、イジュワールを、口説き落として、参りますよ。」
「……コーダ?」
「はい。」
口説き落とすというのは、笑えない冗談として。
「ここで、イジュワールと、やりあえるのですか。イジュワールの本拠地なのでしょう。」
「そうですね。」
「イジュワールに、有利なのではないですか。」
「向こうの拠点ではありますが、だからこそ、取れる手もあります。」
……それが、ミツルギですか。
確かに、イジュワールにとって、ここが重要な施設なら、駆け引きの材料にもなるのでしょう。
そして、最悪の場合、地上からミツルギの魔剣でここを丸ごと吹き飛ばしてしまえば、コーダは石の状態で生き残れるということですね。
「となると、私達は、コーダの告白の邪魔をしないことが、最大の貢献ということですね。」
「ふふふ、そういうことです。……ぐふぅ!?」
自分で言った冗談ながら、少々不愉快になって、コーダの気配を感じる辺りに、ピシリと圧をかけておきました。
「それでは、デートかデュエルか知りませんけど、最後の勝負とやらの、けりを着けてきてください。」
イジュワールの石の封を解き、石板の一つに、重付を、行います。
石を持つ指先を弾くような勢いで、石は石板の中に溶けていきました。
「ククク、ファファファ、ハッハッハァーー!!」
イジュワールの哄笑を聞きながら、私とケーヴィンは、壁際で防壁を準備していました。




