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炉にくべる

イーオットは袋から指輪を取り出すと、ひしゃくのような長い柄のついている、鉱物でできた器の中に入れました。


炉に向かって反対の手を広げると、詠唱を始めます。

火精の術と、土精の術も混ぜていますね。


土精の術は、圧縮をその本質とします。

火精の力だけでは高い温度と密度にする前に生みだした熱が逃げていってしまうので、土精の力でその場にとどめて収束させるのです。

当然、僕も土精の術も修めていますよ。


炉の底に置いてあった亀甲炭の欠片を、熱しながら数センチの輪の形に固めていきます。亀甲炭は、名前の通りカメの魔獣の甲羅を加工して作る燃料です。

普通の火ではそうそう着火できませんが、いったん火がつけば炎が上がらず温度は高いという、粘りのある燃えかたをします。


少し緑がかった炎の輪が、炉の中でぼんやりとした光を放っています。

亀甲炭にこんなにスムーズに火を回すのは、僕が見たなかでも親方級の鍛冶師くらいです。


火精の力を、熱するだけではなくてわずかに浮かせるのにも使っていますね。

立体的に空気を回しているのに、炎を揺るがせないのは、相当に難しいコントロールです。

大雑把な術者では、あっという間に火弾となって吹っ飛んで行ってしまうでしょう。


「ものすごく繊細な術の扱いですね。」


「分かりますか? 小さな品物には、小さな火がよく似合いますからね。ただし、弱い火ではいけません。小さくて、強い火。それが大切です。」


分かるような分からないような話ですが、イーオットが優れた術者だということはハッキリしました。


ひしゃくを、緑の火の輪に近づけてしばらく待ちます。

一瞬、小さな閃光が走ったように見えました。

もう少しだけそのまま。


イーオットが手もとに引き上げた鉱石のひしゃくの中では、指輪がすっかり形を失って、陽炎をまとった金属の滴になっていました。


「綺麗ですね。金とは少し違った色合いですが?」


「黄花金という合金です。火精と風精に相性がいいんです。魔力をため込む容量は小さいですが、精霊の動きを感知する助けをしてくれます。それほど高価な材料ではありませんから、初級の術者向けの魔道具によく用いられます。」


ひしゃくから、作業台の上の石の皿の上に溶けた黄花金を垂らします。

温度が下がると、ヒメグリ草の花びらのような、鮮やかな黄色で落ち着きました。


「今の作業は、ただ金属の指輪を溶かしたということでいいんでしょうか?」


「そうですね。実はかすかに残っていた魔力が暴走しているんですが、気づきましたか?」


「溶かし始めたころ、一瞬、光った気がしました。」


イーオットが頷きます。


「では次に、魔力が残っているとどうなるかをお見せしましょう。」



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