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帝都へ

ミツルギは、ともすればよろけそうになる体を、必死に支えていた。


コーダ殿を抱くリュシーナ様を先頭に、私とシュッツコイ、スミとミステレンが連れ立って、ダンジョンの外に出た。


村長には、私から、コーダ殿が石の姿になってしまったことを簡単に伝えておいた。


「ダンジョンマスターの存在としては、今までと変わらず共同管理者として(リンク)を感じる」とのことで、割とすんなり受け入れられているようだ。


ダンジョンの管理者ともなると、姿かたちが変わることなど、それほど違和感がなかったりするのだろうか。

後でシュッツコイ殿にそんな話をしてみたら、「お前も、術でもなく翼を生やせるじゃないか」と言われた。


ミステレン殿も、イーオット殿という勇者の存在があるからか、比較的平静に受け止めているように見える。

シュッツコイ殿は、静かな表情に見えるが、どうなのだろうか。

イジュワールに長く仕えていたとすれば、人の姿を介さない付き合いにも、慣れているのかもしれない。


私は、まだ、混乱している。

肉体を、失う。

その、重みを、どう考えたらよいのか。


コーダ殿は、私が、コーダ殿を救ったのだと言ってくれた。

実際、それも事実なのだろう。


誰かが、イジュワールの憑依に対抗したことがあるのは、コーダ殿一人だと言っていた。

そのコーダ殿が憑依されたとしたら、どうしたら、回復できるのか。


他に手があったかと言えば、私には浮かばないし、コーダ殿が唯一の手を指示したのだとすれば、迷わず実行したことを、私が後悔するようなことではない、はずだ。


いや、理屈など、よい。

要は、今あるこの状況を、どう受け入れるか、だ。


正解を探すのではなく、ただ積み上げていく。

そういう在り方を、わが師が、示した。

そのように、私は、選んだはずだ。


ようやく、顔を上げられる。


帝都までは、魔道飛行艇での移動となった。

水精家の持ち物らしい。


私は魔素の翼で空を飛べるようになっているが、他人を乗せるのはまだ難しい。


シュッツコイと何度か訓練したが、「少なくとも俺以上の体術の持ち主でなければ、絶対に乗せて飛んではいけない」と命令されている。

また、翼からあふれて発生する魔素が、近くの他の精霊や魔道具にも影響を及ぼすため、魔物や人間がいる近くでは飛ぶなとも言われている。


そんなわけで、私も一緒に魔道飛行艇に乗せてもらっている。


道中、コーダ殿とケーヴィン師は、仮の肉体をゴーレムで作るなら、人型かそれ以外か、どちらがよいかと熱心に議論していた。


正直なところ、私は、石を相手に話しかけることに敷居の高さを感じている。

だが、ケーヴィン師の口調は、目の前にいるのが人であっても石であっても、いつもと全く変わらなかった。


「僕は、剥奪で離脱することはできても、誰かに付与してもらわなくては、再び憑依することはできませんからね。あまり精巧な人型とすると、離脱して放棄した場合に、問題になるでしょう。」


「手間をかけて作った貴重な義体を、使い捨てにされたくはないがな。身元を知られるのが嫌なら、離脱した後に自己破壊して絶魔体に変える仕組みはどうだ。」


「それこそ、人がガラスか何かに変えられたみたいじゃないですか。かえって目立っちゃうかもしれませんよ。」


「緊急避難だろ? 一回くらいならありじゃねえか?」


「うーん。やっぱり、鳥とか猫とかの方が使い勝手がいいんじゃないでしょうか。」


「偵察や工作活動なら、間違いなくそうなんだろうけどな。対人折衝はどうするんだ。使い魔でも装うのか。」


「姿を変える仕組みとかあれば、どうですかね。」


「そこまでいくと、最初から張りぼての着ぐるみか幻術の術式で構築した方が早くないか? そもそも憑依の必要も疑問になってくるな。」


「ああ、確かに……」


コーダ殿は、石の姿であることにも慣れてきたのか、途中から、話に興奮するとピョンピョンと跳ねたり、時おり、宙に浮いて、窓から外の様子を眺めに行ったりしていた。


私の知る限り、そんな精霊石は、見たことが無い。


リュシーナ様は、そんなコーダ殿の姿を、眺めて微笑んでいらっしゃる。


スミとミステレンは、並んで椅子に座りながら、お茶とお菓子を楽しんでいる。

それぞれがどう考えているのかは分からないが、十五ほども歳が違う。

はた目には、仲の良い親子だ。

あと五年もすれば、違った光景に見えるのだろうか。


シュッツコイ殿は、私の隣で帝室に提出するべき報告書に取り掛かっているが、白紙を前に腕を組んで唸っている。

……歳の差と言えば、私とシュッツコイ殿も、似たようなものか。

どのように、見えているのだろうな。


報告書について、思いを巡らせる。

今回の調査行で、我々は何を捜し、何を見つけたというべきなのか。

私にも、答えは浮かばない。


ただ、この魔道飛行艇の中の、緩やかな空気と時間が、私の肩から力を抜かせてくれた。



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