ダンジョンを出て
「何と言ったらいいのか、コーダは、これでよかったのですか?」
リュシーナさまから、多少の魔力を譲っていただいたので、意識がはっきりしています。
「えーと、僕も、こんな展開を予定していたわけではなかったのですが……。その辺りはまたあとでゆっくり。先ほど申しあげたとおり、戦いは、まだ終わっていないのです。」
リュシーナさまの手のひらに乗せてもらって、移動しています。
……ペンダントなんかにしてもらうのも、いいかもしれませんね。
「フロイデの石は、再びここの管理人に、してあげてください。今は魔素を失ってしまいましたけど、時間が経てば回復するでしょう。それまでは、この魔物達が面倒を見てくれるでしょうし。」
良さそうな木を選んで、リュシーナさまが付与を行います。
ミツルギ様から地竜に事情を説明して、世話をお願いしておきました。
今は苗木のような大きさですが、すぐに大樹へと育つことでしょう。
スミが、二代目となったフロイデの木に、深々と礼をしています。
「本当に、ありがとうございます。あなたがいなければ、私の自由は、ありませんでした。」
おお。スミが、あんなに素直に感謝の意を示しています。
それにしても、フロイデが、スミを助けるために身代わりになろうとするなんて、考えもしませんでした。
自由を失うつらさに、それだけ共感したってことなんでしょうか。
……僕も、あと少しで、イジュワールのものになってしまうところでしたけど。
フロイデには、また用件を済ませたら戻ると告げて、別れました。
軍や警備隊が外で包囲しているでしょうから、フロイデにお願いして、別の出口を一時的に作ってもらいました。
ある程度距離さえ置ければ、こちらは精霊術の達人が揃っています。
通常の部隊に探知されることなどありません。
ミツルギ様の言葉通りケーヴィンの工房に向かうと、そこにいたのは、ミステレンとシュッツコイでした。
スミが、ミステレンのもとに駆け寄って、抱きつきます。
ミステレンも、少し膝を落として、その懐に受け入れています。
感動の、再会ですね。
シュッツコイも、スミとミステレンを、一歩引いた位置から、少しまぶしそうに眺めています。
「スミ、無事に戻れて、本当に、良かった。コーダが、やってくれたんだな。イジュワールは。」
「こちらに。」
ミツルギが絶魔体の封を見せると、ほっとした表情で、きょろきょろと視線を泳がせる。
「……コーダは?」
リュシーナさまやケーヴィンの、困惑を隠せない表情に、ミステレンは不穏な空気を感じたようです。
「ええと……」
説明しかけたリュシーナさまを、制します。僕は自分で語れますし。
「ミステレンさん、僕は、ここです。色々ありまして、今は精霊石の姿になってます。」
リュシーナさまが、手のひらの中の赤い石、つまり僕を、示しました。
「えっ!?」
「なっ…!?」
シュッツコイも、一緒になって驚きの声を上げています。
「ま、まさか、コーダは、勇者、だったのか?」
「いえ。そういうわけではありません。勇者になったんでしょうか? 今のところ、自分では、石になってしまったことしか分からないんですが……。」
ケーヴィンが、補足してくれます。
「コーダは、イジュワールとの戦いの中で、自らに剥奪術を掛けたのだ。」
「ちょっと、待ってくれ……」
「はくだつ、じゅつ…? 人が、精霊に、なるのか?」
「僕も、初めての試みでしたから、詳しい話は、また後日、イーオットさんも交えて、お話ししましょう。あの方なら、いろいろ教えてくれそうです。」
「……コーダ、君は、知っていたのか。」
「何をです?」
「イーオットが、勇者の、生き残りであることを。」
「いえ。全然。……そ、そうなんですか!? いいんですか、そんなこと、みんなに話してしまって。」
「イーオットは、今まで、風穴で人目を避けながら、魔道具の精霊の世話をして過ごしてきた。
だが、今回の一連の事件の中で、夢魔の一族の、一部の面倒を見ると言い出した。
年も取らず、姿も変わらないのだ。他者と暮らすと決めたならば、近いうちに、勇者の生き残りであることも、明らかにするつもりだろう。」
「そんなことが……。」
「コーダが精霊石となったということが、どういう意味なのかは私にはよく分からないが、勇者と似た存在なのだとしたら、イーオットは、暮らしの案内をしてくれる、はずだ。」
「ありがたい、お話です。」
石なので、念話の言葉でしか表せませんが。
「ですが、まだ、僕にはやらなければならないことが、あります。僕の戦いは、まだ、終わっていないのです。そのためには、リュシーナさま、あなたのお力が、必要です。一緒に、ついて来て、いただけますか。」
「喜んで、お供、致しましょう。」
リュシーナさまが、優雅に礼をしてくれます。
「わた、私のせいで、コーダ殿は、そのような姿に、なってしまったのだ……。私にも、手伝わせてくれ……」
「ミツルギ様……。この度の作戦は、僕が指示したものです。あそこでミツルギ様が撃ってくださらねば、僕は意思を失い、イジュワールの憑依体となっていたでしょう。あなたは、僕の、心の自由を守ってくださったのです。むしろ、誇ってくださいよ。」
「わが師よ……。」
ミツルギ様は、なかなか顔を上げられずにいました。
が、残念ながら、今の僕には、そっと差し伸べる手も、出せないのです。
「ミツルギ様とシュッツコイさんは、帝都で報告することも色々とあるでしょう。僕の戦いも、帝都が舞台となります。まずは、旅の仲間ということで。」
ふるふると、ミツルギ様が頭を縦に動かし、そこに、目を赤くしたシュッツコイさんが、ポンポンと手を添えていました。
うんうん、温かな、光景です。
「あ、ケーヴィンさんも、必要なので、来てくださいね。」
「おい、俺だけ、なんか扱い違うんじゃないか?」
終盤につき、連投しています。




