霊樹の中で
「なんだい、つまんないねぇ。」
イジュワールの距離と方角を、探知……できません。
絶魔体の、干渉が、厳しすぎます。
それに、声は、僕の閉じ込められている空間の周囲を、ゆっくりと移動しながら聞こえてきます。
狭い部屋の天井や壁の裏を、何かがはい回っているかのように。
「ケ、ケーヴィンさん! 早く、早く助けてください!!」
必死の声で叫ぶと、外の魔道兵器が立ち上がりました。
救出作業を、再開してくれるようです。
「ふふ、いい仲間じゃ、ないか。」
頭の上から、声が聞こえます。
尻もちをつくように、思わず身を縮めます。
もう気配を隠さず探知の術を展開し、同時に剥奪の、準備をします。
来るなら来い、です。
カウンターで、捕えてやりますよ……。
「ふん、削られたとはいえ、この図体だ。そう簡単に、剥奪できるものか。」
「やってみなければ、分かりませんよ。」
「そうかい。」
天井から、いつのまにか降りてきていた枝垂れ。
「剥奪!」
すかさず掴んで、剥奪を仕掛けますが……、違う、この精霊は、この身体から離れようとしていません……。
「はずれ。そいつは霊樹の精霊の一部だよ。」
くっ。
術を中断し、拡散しかけた自分の意識を、必死で戻します。
「もうちょっと、弱らせた方が、いいかねぇ。」
枝が、大量に隙間に入り込んできます。
「ひ、ひぃっ!」
思わず、気持ち悪さに声が出てしまいました。
精霊術で手刀を強化しますが、駄目です、払いのけるのが、せいぜいです。
徐々に絡みつかれ、動きが取れなくなってしまいました。
まずい、まずすぎる状況です。
絡みついた根か枝か分からないようなグネグネしたものから、黒い術式の気配が立ち上っています。
「呪縛を施したら、お前さんに憑依するとしようかね。そして、お仲間に、救出してもらうのさ。
くくく、あの娘達と、帝都へ凱旋というわけだねぇ。無事に帰れるかねぇ……。」
ああ、もう、これは、いかん奴です。
最後の力で、叫びます。
「ミツルギ様、今すぐ、ここに全力の雷を!!」
「な……!」
いぶかし気な、イジュワールの声が、耳に残っていました。
リュシーナは、自分の無力さに、わずかながら焦りの気持ちを感じていた。
魔物とたわいのない話をしていたミツルギ殿が、急に黙り込み、振り返ります。
私は、魔道兵器が、再びコーダ様の救出作業に取り掛かったのを、下から見守っているだけでした。
霊樹の人形の内部には絶魔体が巡らせてあり、精霊術で直接作業をすることができないそうです。
「ケーヴィン師よ、魔道兵器を、そこから退避させよ!」
ミツルギ殿の周りで、急激に高まっていく魔力と、周囲にあふれ出す魔素の気配。
「な、何が!?」
「コーダ殿の、命令だ。最大の雷撃を行う! ほかの者も、できるだけ距離を取れぇ!」
「そんな!? コーダ様は、防壁さえ張れないはずですよ!?」
「何だ……と!?」
ミツルギは、一瞬驚きつつも、次の瞬間には、納得したように覚悟の光を目にともす。
魔剣を正眼に構え、目を細める。
「だが、コーダ殿は、『今すぐ』、そう命ぜられた。信じる、のみだ。」
「な、何を言っているの、ミツルギ様。やめて、やめてよっ!!」
リュシーナが、叫ぶ。
魔剣の周囲で、空気さえも灼けるにおいが立ち昇る。
膨大な熱量が細く細く、ねじり集められ、余熱だけで陽炎が広がっていく。
「ゆけ!」
ミツルギが、木偶人形に向かって、その魔剣を突き出す。
パッ、パァンッ、ドゴァ……ンン……
魔剣の雷撃が、リュシーナが振り向けた防壁をガラスのように突き破り、木偶人形へと突き刺さる。
衝撃と爆風と飛び散った破片が、雷雨のような音を、立てていた。




