コーダの災厄
「あ、熱いよう…… い、痛いよう……。」
しばらく、意識を失っていたみたいですね。
身体の様子を、確かめます。
火傷と打撲とねんざと擦り傷と……
にじんだ血も乾いていないので、気を失っていたのは、ほんの数秒みたいです。
手や足も、ちゃんと動きます。
ふぅ。
抜け殻があまり圧縮されておらず、ぶにゅぶにゅと柔らかくクッションになったおかげで、重傷にならずに済んだようです。
うんうんと、うなりながら、どうにか腰の鞄から銅のコップを取り出します。
「サー・エリク……。お願いします。」
コップの中に、輝く液体が、満ちていきます。
ゴッゴッゴッゴッ。
震える手で、一息で飲み干すと、痛みがずいぶん和らぎました。
「無茶をするなよ、コーダ。わしはもともと戦闘用ではない工房の魔道具。回復系統で与えられた術式も、瞬間的な効能よりは長期的な効能を中心とされておる。重傷を負えば、治癒が間に合わぬぞ。」
「いや、僕が無茶したわけでは……。」
と、あれ? 先ほどまで、獣型の魔道兵器が外で僕の救助に当たっていたと思うのですが、静かになってしまいました。
絶魔体にできた隙間に目を当てて、外の様子をうかがいます。
……獣の魔道兵器が、地竜と戦っています。
ケーヴィンは……スミを、守って。
リュシーナさまは……無数の防壁と剣劇で……周囲の魔物を牽制しています。
魔物? 魔物の群れ?
え? どこから?
なにこれ?
「サー・エリク、状況が、分かりますか!?」
「むぅ。絶魔体越しに見ておっただけだから、断片的にしか分からんが。
どうやらイジュワールが、この霊樹の声を使って、ダンジョンの魔物を呼び寄せたようじゃな。」
じゃあ、この魔物達は、フロイデを助けるために……!?
そうか、リュシーナさまも、ケーヴィンも、この魔物達とはほとんど接点がないのでした!
術も念話もまともに使えないこの状況では、僕の声も、届きません。
もっとも、僕も、それほど前に出て話していたわけではないので、魔物達が分かるかどうか……。
もう一人のダンジョンマスターである村長さん、も、ゲートの外だし……、だ、誰か……
ゴウゥ……ンン。
音が、遅れてくるほどの衝撃波。
細く、細く一筋の光の糸のように絞り込んだ雷が、落ちてくるのを、その場の全員が、目撃しました。
帯電する空気の中、皆が動きを止めて、宙に浮かぶその存在に目を取られています。
「鎮まりたまえ、霊樹の盟友よ。この者達は、霊樹を害しようというわけではない。」
人の体に、巨大な魔素の黒い翼を背負い、掲げるは黒き魔剣。
「ミ、ミツルギ様ぁ!!!」
そうです。
ミツルギ様の修行の折には、霊樹の依頼によって、この世界を荒らす魔物を討伐していました。
狙いは魔素でしたけど。
その際に救ってあげた魔物や魔素だけ奪って屈服させた魔物、もう少しややこしい事情があった魔物たちにとっては、ミツルギ様は霊樹の加護の代行者、御使いのようなものなのです。
魔物の中には、その姿を見ただけで、膝を着いて頭を下げているものもいるくらいです。
その光景は、降臨、と表現しても差し支えないくらいです。
「ミツルギ様、もはや天使です!」
思わず口にすると、リュシーナさまがじろりとこちらに目をやったのが見えました。
おっと。
その場の魔物の代表格だった地竜が、瞳の興奮色を徐々に薄めていきます。
ケーヴィンも、ほっとしたように魔道兵器を伏せさせています。
ミツルギ様は地竜の近くに降り立ち、他のリーダー格の魔物も、その近くに集まっていきます。
「ミツルギ、どういうことか……」
「霊樹の精霊、フロイデは、今、他の精霊に支配されかけている。この者達は、その精霊を止めるために、戦っているのだ……」
「む。そうなのか……」
よかった、話し合いが、できそうですね……。
「なんだい、つまんないねぇ。」
イジュワールが、耳元でささやきます。
僕の災厄は、まだまだ終わっていないのでした。




