囚われのコーダ
「お前も、さっさとそこから出てこい!」
ケーヴィンの声が、なんだか遠くに感じます。
どうなっているんでしょう?
意識を身体の側に戻すと、いつの間にか、僕は、びっしりと積み上がった、ぶよぶよした枝で埋め尽くされた空間に、閉じ込められていました。
え!? なんで!?
スミが無事に出られましたし、フロイデからも、アビスマリアさんからも、何の警告も無かったのに……!
「だから、言ったろう? お前さんの、敗因は、精霊の声に、頼りすぎることだと。」
イジュワール……。
む。
霊樹とはいえ、たかが枝。
風精と火精の力で切り刻んで、飛び出してみせますよ!
と。
精霊術が、うまく働きません。
この感覚は……。
「絶魔体!? なんで?」
「お前さんが、抜け殻をどんどん作ってくれたからねぇ。
抜け殻になった枝葉を、お前さんの身体の回りに、積み上げてやったのさ。絶魔体というには、ちょいと圧縮が足りないかねぇ。それでも、術の妨害をするには十分さね。
あと少し、全体を覆ったら、もう念話も通じなくなっちまうよ。」
「どうやって、絶魔体をそんなに自由に……。それに、あ!」
「驚くことじゃ、ないだろう。目の前に、差し出しておいて。」
「ア、アビスマリアさん……?」
小さな声が、か細く、途切れ途切れに、聞こえます。
「す、すまん…… 抵抗できると、思ったのだが……」
「アビスマリアさんに、何をした!」
「ふん、わしに言われるまで、その声さえ聞いておらなんだくせに。」
くぅっ。イジュワールに深くかかわったことのある存在は、危険だからと、自分で言っていたのに。
イジュワールが、独り言のように、つぶやいています。
「声を出して泣く者は、幸せさ……。救いはないかもしれないが、誰かが、聞いている。
声を出さずに泣く者は、誰に知られることも、無い。」
「それが、あなたが精霊に肩入れする、理由なのですか。」
「くくく、肩入れ、か。そういうつもりは、ないけどねぇ。
静かに、ただ静かに働く、そんな精霊の姿が、好きなんだよ。」
ぐらり。ぐらり。
霊樹の幹が、大きく揺さぶられます。
霊樹が、その根を地面から抜き出して、歩き出そうとしているのです。
「さて。霊樹の精霊もどきも大人しくなったし、お前さんの体も捕まえたことだし、そろそろお暇しようかねぇ。
ちぃっとばかり、体が大きすぎるから、このままじゃ、不便さね。アビスマリアや、お前さんの力を、もうちっと借りるよ。」
霊樹が、身体の作りを組み替えながら、ゆっくりと縮んでいきます。
高さ十メルテルほどまで小さくなるとともに、その形は、人間のようになっています。
目も鼻もない、のっぺりとした木偶人形の姿ですが、そのたたずまいは、どこか少女のような印象を、反映しています。
「フロイデ……。」
呼び掛けに対する答えは、言葉にはなりませんでしたが、何か、反応のうねりがありました。
「ふふ、ちょっとばかり、人形にしちゃ大きすぎるし細工が大雑把だが、かんべんしておくれ。この小僧を、運ばなきゃならないからね。」
イジュワールの声とともに、木偶人形が歩きだしています。
僕は、絶魔体にくるまれて、巨大な木偶人形の、胸元に埋め込まれた状態と、なっているのでした。
剥奪の、術は……?
脇を見れば、アビスマリアさんの石と、剥奪で生み出されつつある石が、同じく絶魔体で埋め込まれています。
駄目ですね、こんな勢いでは、イジュワールをどうこうするには、気の遠くなるような時間が、必要です。
手を伸ばして、剥奪の術を、解除します。
できかけの精霊石は、ひび割れて、霧散していきました。
イジュワールの憑依は、簡単には移れない代わりに、はるかに強固なものとなっているようです。
単純に剥奪を仕掛けても、とても無理でしょう。
これは、どうしたものでしょう……。
ちょっと真剣に悩みだした僕の耳に、鋭い声が、聞こえてきます。
「待ちなさい!」
無数の、炎の短剣が、円を描いて、空中に、浮いています。
その中心には、リュシーナさまの姿。
「コーダは、置いていってもらいます!」
「ふん、魔杖の使い手かい……。精霊術も、お上手なようだねぇ。
それで? その花火で、わしとやりあおうってのかい?」
「コーダを解放すれば、傷つけないと約束します。私の炎は、無尽です。」




