戦端
ケーヴィンさんが指揮の補佐をしてくれますよと伝えると、リュシーナさまはキョトンとしていました。
「ケーヴィン師は、戦うのが嫌いで、戦闘系の術は修めていないのではありませんでしたか?」
「何と言いますか、実戦は嫌いでも、軍師としての働きは工房主の嗜みのようなものです。」
「……よく分かりませんが、分かりました。何しろ、こちらは素人も同然です。補佐していただけるならば、それに越したことはありません。」
「俺も、実戦での指揮経験はないからな。話半分に、聞いてくれ。
まず、街道警備隊は斥候に当たっているようだ。主力先鋒は帝国軍の魔道騎兵隊、中堅に魔道装甲兵、右翼、左翼とバランスよく固めた、進軍制圧を目的とした、軍の標準的な編成だな……。
そして、特殊な防壁等は探知されていない。」
「つまり、帝国軍……、敵は、通常の軍ないし武装勢力を相手にしていると、そう思っているわけですね。」
「そうだ。ひょっとすると、イジュワールは偽装した命令だけを出して表に出ておらず、事態も断片的にしか伝わっていないのかもしれん。」
「となると、イジュワールは、単なる軍事行動以外の手を打ってくる可能性も、考えられますね。」
「そうだな。軍の行動自体が囮で、本体は全くの別行動という選択肢もありうる。
こちらには圧倒的な武力があるが、情報戦となれば、厳しいからな。様々な方法で偽装情報を流せるイジュワールに対して、こちらの報告手段は限られる。搦め手を使ってくる可能性も、否定できん。
あとは、コーダ自身への、斬首作戦に対する警戒も必要だな。」
「了解しました。
伝達。軍及び警備隊以外に対する探知警戒も厳にせよ。」
斥候部隊から、敵の先陣を遠距離魔道兵器の射程内に捉えた連絡が来ます。
「こちらの狙いは、イジュワール本体のみ。封術部隊の突入まで、もう少し引き付ける!
遠距離打撃部隊は、事前計画第三案の突入経路に、無力化攻撃の用意!
十、九、八……」
リュシーナさまの、カウントダウンが始まり……、
「五、四……」
唐突に、魔道通信の接続が、消失しました。
「何故!? 精霊の絆が、機能しない!」
リュシーナさまの叫びを聞いたのは、軍勢の衝突の、寸前。
各魔道兵器に施した、対憑依攻性防壁には、何の反応もありません。
魔道通信網の通信施設に重付した精霊達への攻撃も、検知できません。
イジュワールの、声が、聞こえます。
「ふん。小僧。お前さんは、精霊の声が、聞こえるのだろう。
だが、それが、敗因さ。
力の強い魔道具や声の大きな精霊にばかり気を取られて、名もなき、声なき精霊のことを、軽視しすぎておるのだ。」
「なん……ですと……!?」
「魔道通信網は、儂が一から組み上げた装置。主制御装置ひとつ取っても、組み込んだ小さな精霊は無数に働いておる。意思も声も持たぬ微弱な精霊達が、小さな小さな術式を組み込まれて、無数に。
お前さん達のように、大きな精霊石を大量に持ち歩き、魔道具からも魔力を溢れさせているような状況では、感じることもできなかっただろうがな。」
「む、無数の、微精霊達による、総体としての機能構築……!?」
「そうさ。お前さん達は魔道具とも思わなかったような魔道具が、通信網では数多く働いている。術式をねじ込んで、頭だけを押さえれば、いいように扱えるなどと、思い上がりも甚だしいわ!」
「くぅ……!」
悔しさに、こめかみがズキズキと痛みを感じるほどです。
とにかく、リュシーナさまの元へ、駆け込みます。
「リュシーナさま! 申し訳ありません、僕の大失態です。
魔道通信網の、基盤層にも、イジュワールの手が、回っていました!
……精霊の絆は、無力化されました。今の我々は、戦力どころか、目も耳も失われています。離れた小隊に指示を出すことも、できません。」
リュシーナさまも、状況を把握したようです。
今ならまだ、仕切り直せます。
「一方的な殺戮ならともかく、無力化や奪還のようなデリケートな作戦は不可能です。一時撤退しましょう!」
「こ、この子達は……」
リュシーナさまが、逡巡を見せています。
「封術兵団は、接続が遮断されると、自閉状態に切り替わるよう命令を組み込んであります。
……くやしいですが、そう簡単には破壊も干渉もできないはず。彼らを信じましょう。
必ずや、取り戻しに、来ますから!」
ケーヴィンも、うろたえています。
「逃げるったって、どこに逃げるんだよ!?」
二人に、指さして示します。
「……霊樹の、ダンジョンです!」




