出陣前
本日、二投稿目です。
「さて、イジュワールの軍勢が、接近しております。リュシーナさま、そろそろ布陣いたしましょうか。」
魔道通信網の検索機能によれば、イジュワールは、近郊都市に配備されていた軍と街道警備隊を動員している模様。
魔道通信網は、復旧の際に私達も利用できるようにしてありますが、もともとの術式を妨害するには攻性防壁が強固すぎて、そのままになっています。
通信機能も検索機能も、イジュワールにもそのまま使えているので、帝国の正式な命令を偽装することなど造作もないでしょうし、こちらの動きも筒抜けでしょう。
コーダ様と、作戦を再度確認しています。
「以前のイジュワールは、転移しやすいよう、憑依をごく浅くしていました。あの状態ならば、今の僕は、一瞬触れるだけで剥奪が可能です。
向こうもそれを分かっていますから、スミの身体に相当深く、根を張っているはずです。そうなると、簡単には剥奪できません……。」
スミさん。
どのような方か存じ上げませんが、イジュワールの巫女ならば、何人か見たことがあります。
イジュワールの声を聞き、時には魂をその身に降ろす。
全てを捧げ、その一部となることを、何よりも望んでいるような、人達でした。
スミさん。
風穴の管理者だった、夢魔の一族の娘。
イジュワールを剥奪したコーダ様は、その石を、スミさんに預けていたそうです。
帝国の在り方を左右するほどに重要で、一歩間違えば、その身を亡ぼすほど危険な代物を。
コーダ様にとって、それ程に、信頼するに足る方、なのですね。
「……従って、その場では、いったん魔道兵器の力で封じて、この空間に運び込んでから、時間をかけて剥奪の術で勝負することになります。
周囲への被害をどれだけ抑えて、イジュワール、スミの身柄を確保できるか、そして、この場所を守り切れるかが、勝負どころとなるでしょう。」
うなずいてから、こらえきれず、訊ねてしまいます。
「コーダ様、その……スミさんというのは、どういう方なんでしょう。」
「え、スミですか……? うーん。
こう言ってはなんですが、性格はあまり良くないですね。裏表があって、思い込みが激しくて。愛想もないですし、料理も、劇的に下手ですし。
うーん……やっぱり、誉める言葉が浮かばないくらいですよ。」
コーダ様が、色々と思い出しているのか、苦笑いをしながら、口にしていきます。
つまり、そんな方なのに、コーダ様にとっては、その身を賭して、救い出そうというほどの、存在なのですね。
「あ、ここだけの話、ミステレンさんのことが、大好きです。何かの折に応援してあげると、喜ぶかもしれません。」
コ、コーダ様……。
陰ながら想う、その気持ち。
分かりました。
背中を見つめる者同士。
その気持ちを共有できるだけで、私は、十分です。
いえ、肩を並べ、戦いに臨むことができる。
私は、幸せ者かも、しれません。
小隊長達……我が兵団の精霊達が、じっとこちらを注目しています。
私は、一人の女の子ではなく、戦友としてあなたと並び立ちましょう。
「封術兵団、総員、傾注!」
リュシーナの凛とした号令が、昏き函に、響き渡る。
ザガン! 魔道兵器達の姿勢を正す音が、それに応える。
「これより、出陣する!!
目標、スミことイジュワール憑依個体の確保! 傷一つ付けずに、回収して見せろ!!」
「おおぅ! 今の俺様に傷を付けられる存在など、おらん!」
「任せろぉ! 傷一つ付けずに、さらってやるぜぇ!」
「くく……百年……長かったぞ……。再び、地上を、わが力で、覆いつくす……。」
「イエス、マァム!! 命令を、命令をぉ!!」
兵団と称しても、自由な精霊の、方々なのでした。




