新たなる主
新たなる、主。
声は、聞こえなくとも、空気や床を震わす波動だけで、精霊達の騒ぎぶりが感じられます。
まるで交響曲の指揮者のように、魔道兵器達へ、コーダ様から強いメッセージが放たれています。
「彼女こそ、人類の守護者にして、あなた達に、新たな精霊との絆を、もたらす者。
魔杖の『災厄』を従え、無尽の魔力を供給します。」
って、え? それ、私のことですか?
「すなわち、個にして軍! その力の一端を担い、イジュワールとぶつかろうという者は、おりませんか!! 我が檄に、応じる者は、この呼びかけに、こたえてください!!」
拳を突き上げて叫ぶコーダ様の波動に応えるように、精霊の力が、波となって周囲を駆け巡っているのを感じます。
コーダ様が何を言っていたか、よく分かりませんが、なにやら満足そうな顔をして、こちらにやってきました。
「さ、リュシーナさま、あなたの、出番です。」
「えーと。」
「これより、新たなる魔道兵器の軍を、編成します。こちらの石を使い、この者達に、重付を。」
「え? 重付、ですか。」
コーダ様が、カバンの中から、両の掌で抱えるほどの袋を取り出し、私の手を取って、載せてきました。
仕方なく、袋の口を開けます。
「何ですか、この精霊石の山は……!!」
思わず、手が震えます。
一目で重量級の品位と分かる精霊石が、すぐには数えられないくらい、詰まっています。
「少なくとも百はありますから、存分に使ってください。
こちらは、かつて大貴族たちの邸宅や宝物を守る、扉や鍵の魔道具に用いられていた精霊達です。守りや封じの術式も、強力なものを持っています。」
「いえ、そういうことではなく!」
「あちらの魔道兵器たちは、きわめて強大な破壊力を持っていますが、おいそれと用いることのできない、大規模な兵器として作られたものばかりです。
重付の際に、二つの精霊を組み合わせ、封印や防護の力に特化した魔道具へと、作り変えるのです。」
「き、聞いてますか? 私の話……?」
小さな声でリュシーナは抗議しているが、魔道兵器の改装について声高らかに語るコーダは、明後日の方を向いている。
「もう一つ、リュシーナさまがすべての魔道兵器に重付を行うことにより、連携の機能の術式を設定することができるでしょう。精霊の絆により、すべての魔道兵器を、お一人で操作することが、可能になるのです!」
「ちょっ、ちょっと待ってください、百の魔道具を、一人で扱えるわけが、ないじゃないですか!」
「何のための、訓練だったと思っているのです! 百の付与ができるなら、百の命令を下すことなど、どうということはありませんよ!!」
「い、今からその、百の魔道兵器を、作り変えるんですか!?」
「魔道通信網の復旧も、あれだけこなしてきたではありませんか。もう、魔道具の改装など、目をつむっていても、できますよ! 精霊達も、全力で協力してくれます。
さ、さ、リュシーナ魔道封術兵団を、本日この地にて、立ち上げるのです!」
ああ、コーダ様の手元では、もうアビスマリアさんが黒い光を放っています。
そこから目をそらしたつもりなのに、自分で動ける魔道兵器達が、すでに、コーダ様の後ろに、列を作って並んでいます……。
「急ぎますよ! もう、時間が余り残されていませんから!」
出番を待ち望んでいた、石の精霊達と、魔道兵器の精霊達。
ケーヴィン師の、言葉が、思い出されます。
……付与術は、術者の力で精霊を支配するものではなく、精霊の力を、道具の形に変えるものでしかない、と。
「私は、あなた方を支配しません。ただ、この世界の平和を守るために、あなた方の力をお借りしたいのです。……絆と共に、精霊の力を、ここに。」
コーダ様と手を重ね、先頭に並ぶ獣の鎧のような魔道兵器に、精霊石をかざし、重付を行います。
光に包まれながら、鋭さの際立っていた鎧が、厚みを増し、頑強な姿へと変わっていきます。
「……わが主よ、そなたを守る、盾兵となろう……」
「うんうん、強力そうなタンクに進化した感じですね! 素晴らしい。この調子で、ガンガンいきましょう。
石はたっぷりあります!
力の種類や役割は、あとでまとめて分析して編成しなおせば大丈夫ですから、五連、十連でやっちゃってください!」
なんでしょう。あまり、精霊を丁寧に扱っている感じはしないのですが、向こうも乗り気だからなのでしょうか、術は、するすると進んでいきます。
駆ける馬に寄り添うように、精霊の赴くままに、その路を開いてあげる……そんな感覚です。
アビスマリアさんを操る、コーダ様との息も、ぴったりです。
これなら、百連重付だって、一気に、できてしまうかもしれません!
「ご、ごめんなさい……。」
「……リュシーナさま、す、少し、休ませてください。
な、七十連続の重付とか、激しすぎます……。僕は、リュシーナさまと違って、そこまで無尽蔵の魔力を持ってるわけじゃ、ないんですよ……。」
荒い息で膝をつくコーダと右往左往するリュシーナ、二人の周囲には、数十の魔道兵器が、ガヤガヤと動き回っているのであった。




