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料理のお仕事

貴族とは言っても、イオタ帝国の五精家ともなれば、能力なき者はさっさと追いやられてしまいます。

僕が追いやられたのは、能力のせいではないと思いますけどね。

ぐす。


それはさておき。

だからといって、あの家が冷酷非情だったというわけではありません。

むしろ、ありあまる情熱、受け止めきれない熱量で、非常に広い範囲の教育を施してくれたのですから。


僕は付与術には恵まれませんでしたが、回復薬や解毒薬を作るような薬学や、荒野を生き延びるような生存術は身に付けています。

思い出すだけでゾッとする訓練も、数えきれません。


ただ、普通の料理となると、実は未知の世界です。

我が家の誇り高き料理人たちは、調理場に子どもを入れることなど、決してなかったからです。


そのおかげで、魔獣の肉を食べられるようにする方法や毒のある野草を食べて生き延びることは訓練されていても、パスタをゆでたこともなければ、スープを作ったこともないのです。


「すみません、実は、料理の心得が、ないのです。教えていただければ、できるようになるとは思うのですが……。」


料理をしたことがないなんて話したら、貴族かなにかだと、知られてしまうでしょうか。

素性は探らないと言っていましたから、いまさらですけど。


「なら、わたしが教える。」


スミです。

テーブルの端の方に気配を消して埋もれていたので、ちょっとびつくりしました。


ご飯を食べていても、なんだか小動物のようです。

毒の牙とか持ってそうですが。


さて、これは、どういう風の吹きまわしでしょうか。

わざわざ言い出したからには、乗っかればよいのでしょうが、脇に座っているミステレンやムクチウスが、微妙な顔をしています。


「わたしが、この子に、料理を教えてあげればいいと思うんだけど。」


誰も何も言わないからか、もう一度言いました。


アラクレイが、目を泳がせながら、かろうじて声を出します。


「そうだな、何事も、訓練しなけりゃ上達しないからな……」


波乱の予感を覚えつつ、受けるしかなさそうです。


「じゃあ、夕食を、僕とスミさんで作ってみましょうか。スミさん、足を引っ張るかもしれませんけど、いろいろ教えてください。」


スミは、僕の方は見向きもしないまま、うなずいていました。


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