加護の儀
十歳になって、加護の儀が行われた日。
「お父さま、こちらに手を乗せるのですか。」
「そうだ。では、発動させるぞ、コーダよ。」
親族や親しい人々、招かれたお客さまが見守る中、僕の加護の儀がとり行われていた。
小さな魔法陣が浮かび上がって、下に敷かれた羊皮紙に焼き文字が浮かび上がる。
「加護;剥奪ノ術」
羊皮紙を取り上げたお父さまの、脇に立つお爺さまの、お二人の顔つきが凍りついたように固まっている。
「何と、書かれているのでしょう……?」
お二人とも、返事がありません。
「お父さま……?」
「加護は、剥奪の術とされた。過去に無き、術である。詳細は、調べて皆にお知らせしよう。すまぬが、体調が優れぬゆえ、今日はここまでとする。」
いつもはゆったりと、自信に満ちた口調のお父さまが、早口で、硬い口調でまくしたてる。
居合わせた人々が、聞きなれない言葉に戸惑っています。
「はくだつ? どういう術なのだ?」
「過去に無いって、珍しいってことか?」
僕の腕を、一番上のお兄さまが、つかんで引っ張っていきます。
「来い。客人に、その身をさらすな。」
「兄さま……?」
後ろからついてくるお母さまも、青白い顔をしています。
「未知の術……まさか、我が一族に黒の気配が……?」
「いや、それはあり得ません」
お兄さまのつかむ力が、いっそう強くなります。
「兄さま、痛いですよ……?」
その後のことは、詳しくは覚えていません。
覚えていないのではなくて、思い出さないようにしているのかもしれません。
ほんの少しの荷物を持って、荷車の後ろに寝かされ、さらに夜を徹して運河まで運ばれたという記憶以外は。
その日をもって、僕コーダ・イグナティカは、イオタ帝国に名にし負う火精の家から、その名を消されたのです。
プロローグ部分が終わったら、もう少しまとまった量で投稿します。