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管理棟前の戦い

イーオットが、ムクチウスと共に身構えて、告げる。


「あなた方は、すでに死地に踏み込んでいるのですから……。」


後ろに従っている術師めいた男二人は、イーオットの言葉に、ギョッとした表情を浮かべて周囲を探知している。

それを、大男モンクバッカが、大剣を手に持ったまま、笑い飛ばす。


「はぁ! あんな仕掛けなんぞ、吹き消してやったぞ。チャチな魔道具を、小賢しく仕込んでたみてぇだがな。」


無造作に、歩み寄ってくるモンクバッカの手元には、小さな黒色の渦が立ち込めている。

精霊の力を打ち消す、破精術の力場だった。

剣は抜かずに柱の陰に隠れているシュッツコイが、隣のミツルギにコッソリとささやく。


「あれが、破精術の一つの形だ。あれだけの虚無の力場を、手のひらの中で構成できるのは相当な力だ。お前の雷撃でも、二つか三つは打ち消せすことができるだろうな。」


「……そうか。相当な、力か。」


ミツルギは、例の「ゆけ」と命ずると放たれる雷撃を十六夜閃(いざよいせん)と名付けていたが、実際には八十八くらいまで同時に飛ばせそうな気がしていた。


モンクバッカの反応にもよらず、イーオットの声の調子は、平静なままだ。


「精霊のことを、粗雑に扱っているから、その声が聞こえない。気配も、感じられない。

精気を放っていなくとも、精霊は、どこにでもいるのですよ。

そして、つながっているのです。」


イーオットが派手に振るった右腕から、かすかな衝撃波のような波紋が大気中を広がる。

庭園の中で距離を詰めていた大男達は、とっさに足場の良い石畳に位置を取って防御を固めるが、波紋は表面を触るようにして、何事もなく通り過ぎていく。


「なんだ……? 打撃も傷も……ない?」


「それは、単なる囮です。言ったでしょう。精霊は、どこにでもいると。」


イーオットを睨んでいる三人の足元が、突然砂のように崩壊した。


「……陳腐な仕掛けですが、有効だから陳腐になるまで使い倒される。

破精術の弱点は、精霊の力は打ち消せても、後発的に引き起こされる事象には無力なこと。それを知らぬほど、経験が無いようにも、見えませんが。」


「は、笑わせるな! 落とし穴ごときで、くたばるかよ。黒の系統に近しいからとて、破精術しか使えねぇと思ってんのか!?」


三人とも、足元を崩されて宙に投げ出された格好だったが、それぞれに術式を展開して墜落を防いでいた。


「思っていませんよ。」


イーオットのセリフに被せるタイミングで、ムクチウスが小さな包みを穴に向かって放る。

小さなつぶてをイーオットが手元から弾くと、包みが破れて中から黒い粉が飛び散って舞った。


「なっ!? 毒か……?」


「自宅の庭に、毒をまき散らす気には、なりませんねぇ。」


「がっ!? なんだ、浮遊の術が、乱れる!」

「せ、精霊が、制御できぬ!?」


夢魔の一族の二人が、混乱の叫びをあげる。


「く、くそがーっ!! お、落ちる……!!」


モンクバッカも、わめきながら、暗い地面の中へ落ちていった。


ミツルギが、声を絞りだす。


「こ、殺したのか……?」


「いいや、殺しちゃいまい。」


返事をしたのは、シュッツコイだった。


「殺すだけなら、発見し次第、煮るなり焼くなりしていただろうよ。

帝国で精霊術を学んだ者は、どうしても魔道具や目に見える形の術式、現象を想定しがちだ。

火球、雷撃、防壁なんてのも、日常的な現象と似たものとして考えているだろう?」


「う、うむ。」


唐突に講話が始まったので、ミツルギは目を泳がせていた。


「だが、それは生徒の理解や想像の助けとなるよう、教える効率のためにそういう導入をしているだけで、本来の精霊の力は、目に見えたり人間の感覚で理解できるような働き方をしているわけじゃない。

このイーオットって男は、そういう原初的な精霊の術を、使うんだ。」


「そ、そうなのか。」


「つまり、本気で罠を仕掛けられたら、俺達には、()()()()()()()()()()さえ、想定するのが難しいだろうよ。

それはそれとして、さっきの泉のあたりの様子からしても、この辺りは地下水位が高い。水音は聞こえにくかったが、穴の底は岩盤ってことはないんだろう?」



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